研究実績の概要 |
本研究では、「糖化」を軸に、「糖化ストレス曝露が精神疾患リスクを高める」という仮説のもと、その因果を明らかにすることを目指し、臨床研究と基礎科学の両側面から早期診断、治療、予防、介入戦略の創出に繋がる所見を蓄積した。我々は従来から活用するHPLC分析、質量分析に加え、非侵襲的測定機器であるAGEsセンサ(シャープライフサイエンス製)を用いて検討を行った。統合失調症と健常者を対象として、指尖AGE(Fingertip AGE, F-AGE)値を測定した結果、糖化ストレスの亢進を確認した。F-AGE値は入院期間と正に相関し、先行研究ですでに明らかとしたペントシジン値と統合失調症の関連を再現しており、AGEセンサが採血に替わる非侵襲的かつ簡便なAGE測定ツールであることを実証した。 また、初発精神病(First Episode Psychosis, FEP)10名と、健常者群31名においてF-AGE値を比較した結果、FEP群で有意な上昇も認めた。このことは患者では発症前後からF-AGEが上昇することを示唆し、抗糖化ストレス介入による発症予防が期待された。さらに、東京ティーンコホート(http://ttcp.umin.jp/)と連携し、抗精神病薬未服薬の児童250名以上を対象に、F-AGEと精神病症状との関連性を検証した結果、F-AGE値が有意に精神病症状の持続と関連することを見出した(Miyashita, Yamasaki et al. under revision)。したがって、F-AGEsは、医療現場のみならず学校や地域においてハイリスク思春期児童の早期同定に有用なバイオマーカーであると考えられ、加えて、思春期~発症前後~慢性期の時系列において、糖化ストレスの生涯軌跡を検証することが可能となり、糖化制御を標的とした有効な先制介入点の創出が期待できる成果を得た。
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