公募研究
これまで大胆、臆病の定量はオープンフィールドテストによって行なっていたが、当該テストでは1個体ずつの検証しか行うことができないという問題点があった。そこで、今年度は明暗刺激に対する逃避行動において大胆性を定量、検証可能かをテストした。大胆系統、臆病系統、実験系統を用いて行動定量を実施した結果、オープンフィールドテストと同様に、大胆系統ではほとんど逃避行動が観察されなかった一方で、臆病系統では多くの逃避行動が観察され、実験系統では中間型の形質が確認された。当該テストでは一度に4匹ほどの解析が可能であり、実験の効率化が期待できる。また、大胆系統と臆病系統を掛け合わせたF1系統同士をかけあわせたF2個体150匹のうち、行動実験の結果から、大胆上位25匹と臆病上位25匹を選定し、その全ゲノムのシーケンスを解析した。得られたシーケンス配列を通常実験系統のゲノム配列にマッピングしたところ、大胆個体と臆病個体との行動の違いを担うゲノム領域が15番染色体にあると予測された。同様に、シーケンス配列をChromiumシステムを用いた大胆系統と臆病系統のゲノム配列にマッピングした結果、実験系統の15番染色体に相当する配列が大胆系統、臆病系統に存在し、行動との相関もあることが明らかになった。また、さらなる絞り込みの結果、実験系統の15番染色体の700kbpほどの領域内に行動と相関する多くのSNPが存在することが確認された。当該領域にはsynucleinなどの神経疾患に関与する遺伝子や機能未知遺伝子が含まれており、SNPにより系統間で異なるアミノ酸配列を有していると考えられた。こうしたアミノ酸配列の違いがタンパク質の機能の違いを生み出し、行動の違いをもたらしている可能性は非常に高いと考えられる。
2: おおむね順調に進展している
F2ゲノムシーケンスの結果、大胆系統と臆病系統の行動の違いを説明できる可能性が高いゲノム領域を700kbpにまで絞り込むことに成功した。また、SNPに伴いアミノ酸配列が異なるか、脳において遺伝子発現しているか、などを考慮すると、責任遺伝子として10程度の遺伝子に絞り込むことができた。この中には神経系で機能し、かつ脊椎動物間で保存されている遺伝子も含まれており、行動形質の違いを生み出す遺伝子の網羅的探索による同定にむけて期待の持てる結果が得られている。
F2ゲノムシーケンス解析の結果絞り込まれた、行動形質の差を生み出す可能性の高いゲノム領域において存在する遺伝子について、臆病系統には大胆系統の配列、大胆系統には臆病系統の配列をノックインし、行動の表現系が変化するかを検証する。着目遺伝子としては、特に機能未知遺伝子や神経疾患に関与する遺伝子を考えている。また、大胆系統と臆病系統から脳を摘出し、トランスクリプトーム解析を行うことで、アミノ酸配列レベルの違いだけではなく、転写調節領域レベルの配列の違いが行動に影響を及ぼす可能性について検証する。
すべて 2020
すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件) 学会発表 (3件) (うち招待講演 2件)
Journal of biochemistry
巻: 168 ページ: 213-222
10.1093/jb/mvaa038