本年度は、大胆系統と臆病系統の脳からRNAを抽出し、RNA-seq解析によって系統間で発現量に差がある遺伝子を網羅的に探索した。臆病系統よりも大胆系統で発現量が多い遺伝子の中にはIL6など免疫系に関わる遺伝子が多く存在していることがわかった。また、昨年行ったGWAS解析の結果得られた、責任候補領域にはnfkb2が含まれており、こちらも免疫系に関与する。近年、一見無関係に思われた免疫系が行動に関与することが報告されていることとあわせて考え、免疫系に関わる遺伝子が大胆さを制御する可能性が考えられた。一方、臆病系統よりも大胆系統で発現量が少なく、その差が大きい遺伝子の中にはセロトニンの生合成に関与するトリプトファンヒドロキシラーゼ(tph)が含まれていた。先行研究では、tphノックアウトメダカでは不安様行動が高まると報告されており、大胆系統の行動特性とは逆の結果である。大胆系統ではtphだけではなく、他の遺伝子発現も標準系統と異なるため、セロトニン系以外の大きな要因が大胆系統の行動特性を決定していることが示唆された。 また、環境要因によって、大胆系統と臆病系統の行動が変化するかの検証を行った。大胆系統と標準系統を同じ水槽で飼育しても、大胆系統の大胆さは変化しなかったが、臆病系統と標準系統を同じ水槽で飼育すると、臆病系統の大胆さが有意に上昇した。この結果は、異なる個性を持つ他者の存在によって遺伝子発現が変化し、生来的な個性に変化をもたらしたことを示唆する。
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