研究実績の概要 |
マイクロエクソンは3から27塩基程度の短いエクソンであり、選択的スプライシングにより組織や発達段階特異的にタンパク質に数残基の挿入を生じることで遺伝子の機能を調節する。マイクロエクソンは特に脳で選択的に取り込まれ、神経組織の正常な発達に必要であることが知られているが、細胞レベルでの調節やその調節の個人差についてはよくわかっていない。今年度は前年度までの研究をさらに推進し、マイクロエクソンの調節について公共のデータを用いた情報科学的解析を行った。脳組織でのマイクロエクソンの細胞ごとの発現調節については、公開されているRNA-seqデータを用いて解析を行い、神経組織特異的な取り込みは細胞レベルでは主にニューロン特異的なものであること、また取り込みがスイッチ用に2峰性で切り替わることがわかった。一方、多くの脳一細胞RNA-seqデータはmRNAの3'側のみを用いたものであり、エクソン接合部のリードが含まれないことが多く、解析に適さないことがわかった。 また、マイクロエクソンの調節についての個人差を調べるためにヨーロッパ系およびアフリカ系の1000人ゲノム計画参加者の遺伝型とリンパ芽球の(バルク)RNA-seqデータを用いてスプライシング量的形質座位(sQTL)解析を行った。ヨーロッパ人による探索では10のマイクロエクソンについてsQTLがみられ、このうち6つはアフリカ系集団でも再現された。これらの6つのsQTLはGenotype Tissue Expression (GTEx)データベースで同じ遺伝子の発現量(e)QTLやsQTLであるケースやスプライシング因子U2AF1, U2AF2の結合部位に見られることがわかった。この結果はリンパ球でのものであるが、GTExでの脳組織のデータの利用などで神経組織でのマイクロエクソンの調節の個人差の解析を検討している。
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