昨年度は、VMAT1遺伝子の進化(Glu130Gly、Thr136Ile)による表現型への影響を解明することを目指し、(1)変異体タンパク質を用いたVMAT1遺伝子の進化過程における機能変化の解明、および(2)VMAT1遺伝子編集マウスを用いた網羅的行動実験を行った。 (1)祖先型および現代人型の各遺伝子型のYFP-VMAT1タンパク質を発現させたところ、その発現量やタンパク質の局在には統計的な差は見られなかった。一方で、蛍光標識神経伝達物質の取り込みに関しては、祖先型である130Gluの取り込み量が有意に多く、チンパンジーとの共通祖先から人類の進化過程(130Glu→Gly、136Asn→Thr)でVMAT1による神経伝達物質の取り込み量が減少したことが示唆された。モノアミン取り込み効率の低い130Gly/136Thrが強い神経質傾向・うつ傾向と関連していることを考慮すると、人類進化の初期では、不安や神経質傾向に対し強い選択圧が働いていた可能性が考えられる。この成果は国際学術誌であるBMC Evolutionary Biology誌に掲載された。 (2)共同研究者である国立精神・神経医療研究センターの井上由紀子博士とともに、VMAT1遺伝子の136番目のアミノ酸をAsn(野生型)からThrおよびIle(いずれもヒト型)に置換した、あるいはそれらを掛け合わせヘテロ型にした、VMAT1遺伝子編集マウス各20匹を作製した。これら4系統のVMAT1遺伝子改変マウスを用いて、藤田医科大学にて網羅的行動バッテリーテスト(不安やうつ、認知機能や活動性の定量)を行った結果、ヒトにおいて見られるのと同様に、Ile型個体の不安レベルが低い傾向が見られた。今後はさらに神経生理学的な実験を行うとともに、関連遺伝子の脳内発現量を定量し、VMAT1遺伝子変異が脳や行動に及ぼす影響を明らかにする予定である。
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