研究領域 | 多様な「個性」を創発する脳システムの統合的理解 |
研究課題/領域番号 |
19H04893
|
研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
安部 健太郎 東北大学, 生命科学研究科, 教授 (70462653)
|
研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2021-03-31
|
キーワード | 転写因子 / 系統差 / 生育環境 |
研究実績の概要 |
動物の「個性」は個体の行動パターンに現れるが、先天的要因であるゲノムの違いが行動や反応などの「個性」の形成に重要であることが知られる。一方で、同じゲノム情報をもつ個体も違った行動パターンを取得することから、同じゲノムをもつ動物が如何にして異なる「個性」を獲得していくのかなど、「個性」を生み出すメカニズムについては不明な部分が多い。本研究では、脳内の遺伝子発現プロファイルの慢性的な変化が個性を生み出すと考え、申請者の独自開発技術により、それらの発現プロファイルを直接作り出す転写因子の活性をマウス(Mus musculus)のin vivo脳内で定量計測する。本研究期間においては、先天的な遺伝情報の違いによる個性的行動の背景にある脳内転写因子活性の違い、また、同じゲノムをもつ個体においても育成環境・飼育環境による行動の違いに着目し、環境要因依存的な脳内転写因子活性の変化とその生理的意義について明らかにする。本年度は、解析系のセットアップを行いマウスの系統による行動パターンの差異を確認した。また、生後育成環境や生活環境による個体の行動パターンの違いを確認し、それらの背景にある脳内転写因子活性の違いについてデータの取得を開始した。先天的なゲノムや後天的な生育環境の違いにより脳内の転写因子活性の違いが生じ、それが遺伝子発現プロファイルの変化を介して「個性」へ影響を及ぼす可能性について現在検討を行っている。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究代表者は近年、生体組織内細胞の内在転写因子活性を定量評価・経時評価することを可能にする、自己補正機能付のレポーターウイルスの開発と、それを利用した転写因子活性プロファイリング技術の確立に成功している。この技術により、生体内細胞における多数の内在転写因子の活性を効率的に定量計測し、数値化することが可能になった。また、脳内の特定の細胞種に上記レポーターウイルスを感染させる効率的な動物個体の作成法を確立している。これら技術を使用することで、マウス成体脳内の内在転写因子活性を測定し、それを“脳内転写因子活性プロファイル”として表し、それが環境刺激や病態によりどのように変化するのかを明らかにすることができる。本年度は、マウスの行動動画からの動作トラッキングを可能にする実験セットアップを確立し、マウスの系統による行動パターンの差異をC57BL6, ICRマウスにおいて恐怖条件付け学習課題を用いて確認した。また、生後育成環境や生活環境による行動パターンの違いを確認した。特に、生後直後の母子隔離が成長後の行動パターンに及ぼす傾向に着目し、それらの背景にある脳内転写因子活性の違いについてデータの取得を開始した。
|
今後の研究の推進方策 |
各個体の行動解析を取得するとともに50種以上の主要な生体脳内転写因子の活性を取得し、得られたデータをもとに、転写因子活性プロファイルを作成、行動パターンなど「個性」と相関する転写因子を同定する。同定した転写因子に関してその活性を制御する操作を行い、行動パターン形成に及ぼす影響を解析する。行動パターンと転写因子活性との相関の解析をより高い精度で取得するため、現在の行動パターン解析に追加して新たな記憶学習課題を導入する。また、生活習慣による行動パターンへの影響も明らかになったので生活習慣が脳内転写因子活性に及ぼす影響についての解析を行う。以上の複数のアプローチを総合することで「個性」に伴う行動パターンと脳内転写因子の関連を明らかにする。
|