公募研究
我々はこれまでに、新奇エピソード体験時に同期活動性で規定された複数の神経細胞集団(セル・アンサンブル)活動が脳内に出現することを明らかにし、これらのセル・アンサンブルによる協奏的な表現様式によって、記憶の全体像が脳内で表出していることを提案するに至った。一方で、エピソード体験の記憶情報が、異なる個体間で同じ様式で認知され脳内で表現されるのかどうかは未だ不明である。そこで本研究課題では、新奇エピソード体験時に存在した複数の感覚情報とそれらに対応したセル・アンサンブル活動との対応付けを行なう。そして、同一エピソードを想起する際に使われる感覚情報に、動物個体間で異なる嗜好性が現れるかをセル・アンサンブル活動を指標として検討する。これによって、セル・アンサンブルによる認知の個性的脳内表現様式の存在を明らかにすることを目的とした。2019年度は、マウス海馬のセル・アンサンブル活動の観察条件を確立するとともに、セル・アンサンブルとエピソードの素子となる感覚情報との対応付けの確立を予定した。マウス海馬のセル・アンサンブル活動データは、海馬に刺入したGRINレンズが投影する蛍光を観察することによるCa2+イメージング法で取得する。マウス脳にレンズを設置する手術を行う環境整備は完了し、実際に海馬からCa2+イメージングを行うための条件も確立できた。また、エピソード記憶形成の際の新規空間暴露(文脈学習)の際に、匂いや光、音や空気の流れといった感覚情報を順番に提示することで、各感覚情報に対応して同期性で規定されるセル・アンサンブル活動が出現することを想定し、この検討を実際のCa2+イメージングによって行う予定であった。しかしながら、これら複数の感覚情報提示を制御するシステムの構築は完了したが、実際のCa2+イメージングとの併用までには至らなかった。
3: やや遅れている
年度途中の7月に異動し、研究環境の整備や遺伝子改変マウスの移動、異動先での実験申請の承認等に時間がかかったため。
本研究では、エピソード記憶の処理に重要な脳領域である海馬CA1領域に存在する数百個の神経細胞の活動を、Ca2+イメージング法を用いて観察し、エピソード記憶形成時に出現するセル・アンサンブルと、匂い、光、そして音といったエピソードのコンポーネントとなる感覚情報との対応付けを行う。さらに、エピソードの認知にどのコンポーネント情報が優先的に寄与するのかを、個体内及び個体間で比較検討することによって、セル・アンサンブル活動による認知情報の個性的脳内表現様式の存在を、今後、以下のような方策で検討する。エピソード記憶形成の際の新規環境暴露(文脈学習)の際に、匂い、光、そして音といったエピソードのコンポーネントとなる感覚情報を提示する。この際、それぞれの感覚入力にマウスが意識を集中すると、各感覚入力情報に対応した同期性で提起される事象関連セル・アンサンブル活動が出現すると想定される。次の日、匂い、光、そして音を順番にマウスに提示し、エピソードを構成していた各感覚入力と事象関連セル・アンサンブル活動の対応付けを行う。さらに翌日、匂い、光、そして音の感覚情報を再提示することでエピソード記憶の想起を誘導し、どのコンポーネント情報が優先的に脳内で表出したのか、先に同定した事象関連セル・アンサンブル活動の出現様式を指標に検討する。これによって、セル・アンサンブルによる認知の個性的脳内表現様式の存在を明らかにする。
すべて 2020 2019 その他
すべて 雑誌論文 (4件) (うち国際共著 1件、 査読あり 4件、 オープンアクセス 4件) 学会発表 (10件) (うち国際学会 4件、 招待講演 2件) 図書 (1件) 備考 (3件)
Molecular Brain
巻: 13 ページ: 7
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Nature Communications
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https://www.dokkyomed.ac.jp/dmu/research/facility/advanced-medicine/cognition-memory.html
http://www.koseisouhatsu.jp/activity/release/20190717_inauguration/index.html
https://www.jst.go.jp/pr/announce/20190614/index.html