公募研究
我々はこれまでに、新奇エピソード体験時に同期活動性で規定された複数の神経細胞集団(セル・アンサンブル)活動が脳内に出現することを明らかにし、これらのセル・アンサンブルによる協奏的な表現様式によって、記憶の全体像が脳内で表出されていることを提案するに至った。一方で、エピソード体験の記憶情報が、認知されセル・アンサンブルとして脳内で表現される機構は未だ不明である。細胞接着分子であるクラスター型プロトカドヘリン(Pcdhs)は、Pcdhα, β, and γ3つのサブグループから構成され、マウスでは58個のPcdhsが脳に発現する。各細胞には、それぞれ異なる組み合わせのPcdhsが発現し、これによって神経細胞間のシナプス結合が規定されていると考えられている。つまりPcdhsによって、個々の神経細胞に個性と繋がり方の多様性が与えられていると予想される。そこで我々は、セル・アンサンブルを介した認知の個性的脳内表現とPcdhsの多様性との関連について検討を行った。今回我々は、Pcdhβ1-22、22個全てを欠損させたマウス(Δβ)でセル・アンサンブルによる新奇エピソード情報の海馬内表現様式を観察・解析した。すると、Δβマウスでは、1つのセル・アンサンブルを構成する細胞数が多く、加えて、それぞれの細胞が複数のセル・アンサンブルに含まれている確率が高いことが明らかとなった。またこれを反映して、Δβマウスは、2つの新奇空間を区別出来難いことが分かった。この結果は、多様な認知情報に対応できるよう脳の神経回路がPcdhsで規定されており、これによってセル・アンサンブルの多様性が保たれていることを示唆する。この多様性は、個性的な認知情報を表現する神経回路基盤の一つであると考えられる。
令和2年度が最終年度であるため、記入しない。
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