公募研究
個性は遺伝的要因と環境的要因が複合した結果である。しかしながら、生物の複雑さから環境的要因と遺伝的要因の複合解析による個性研究はほとんど行われていない。前回の公募研究では個性を理解するため遺伝的要因と環境的要因両者の影響が示唆されている空間弁別能力に焦点をあて、遺伝的要因の神経基盤の探索を試みた。申請者らが着目したセプチンは重合性ヌクレオチド結合蛋白質ファミリーSEPT1-14から成る細胞骨格で、分裂細胞では収縮環の構成成分として細胞質分裂に必須であり、分子の非対称性を保証する拡散障壁として機能する。しかしながら、セプチンは非分裂細胞ニューロンで高発現し、細胞質分裂を超えたセプチン細胞骨格の機能探索の必要性が示唆されていた。さらに、英国Biobankサンプルの大規模GWASにより認知能力の個性を生み出す領域に存在する分子であることが報告された。申請者らは、セプチン欠損マウスの系統的行動解析の結果、複数のパラダイムで一貫して空間弁別能力の記憶保持障害を示すことを見出した。本研究では、空間弁別に与える環境的要因の強度を行動解析で評価可能な実験系の構築を行い、遺伝的要因と環境的要因双方の介入・改変による空間弁別能力形成の因果関係の検証を行うことで個性形成の神経基盤を明らかにする実験系の確立を目指した。既存の空間弁別試験では新規と既知の空間への暴露の待機時間が2時間から24時間で設定されており、数日以上にわたる環境的要因の影響を評価することができない。そこで本研究では、環境的要因が空間弁別能力に与える影響を評価し、遺伝的要因により低下した能力を向上しうることを確認する目的で、空間弁別試験に環境的要因を暴露できる実験系を構築し、この実験系において遺伝的要因により空間弁別の記憶保持低下マウスが従来法と同様の成績低下を示すかを検証した。
2: おおむね順調に進展している
当初目標としていた行動解析の構築と評価を終えたため。
空間弁別は遺伝的要因のみならず環境的要因により変動する行動様式であり、モデル動物を用いて分子・細胞学的基盤を明らかにすれば、階層的に個性を評価できる。さらに、遺伝的要因と環境的要因双方の介入・改変による因果関係の検証が可能な評価系となりうるため、以下2つの課題に取り組む。1:分子、細胞基盤の構築空間弁別の記憶保持低下マウスの表現型を分子から細胞レベルで評価することで、最終的には階層的に個性を評価できる実験系の構築を目指す。2:空間弁別の記憶保持低下マウスに対する環境要因の介入ヒトの研究から運動で促進される神経新生は空間弁別能力を向上させ、カフェイン摂取がこのパターン分離の成績を高めることも示されている。加齢により、新生ニューロンへの分化とその生存が極めて低下することからも、発達・成熟・老化過程において、空間弁別は遺伝的要因のみならず環境的要因により変動する行動様式であることから、これら環境要因の影響を評価する。
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