研究実績の概要 |
「個性」は、遺伝的要因により形成されるが、環境的要因によっても変化する。そのため、個性を階層的に理解するためには遺伝的要因と環境的要因により変化する評価系(分子・細胞・行動)の確立が望まれる。空間弁別は類似した空間記憶を分離、差別化するために必須であり、計算論の立場から責任領域は海馬歯状回であることが示唆されているが、分子・細胞学的基盤は不明である。一方で空間弁別に影響を与える環境的要因については、ヒトの研究から運動で促進される神経新生は空間弁別能力を向上させ、カフェイン摂取がこのパターン分離の成績を高めることも示されている。加齢により、新生ニューロンへの分化とその生存が極めて低下することからも、発達・成熟・老化過程において、空間弁別は遺伝的要因のみならず環境的要因により変動する行動様式であり、モデル動物を用いて分子・細胞学的基盤を明らかにすれば、階層的に個性を評価できる。さらに、遺伝的要因と環境的要因双方の介入・改変による因果関係の検証が可能な評価系となりうる。 申請者らは重合性ヌクレオチド結合蛋白質ファミリーSEPT1-14から成るセプチン細胞骨格の研究を進めており(Ageta-Ishihara et al., Nature Commun 2013, 2015, Neurochem Int 2018)、セプチン欠損マウスの系統的行動解析の結果、複数のパラダイムで一貫して空間弁別能力を欠くことを見出した。そこで本領域に参加し、まずは遺伝的要因としてセプチンに着目し、セプチン欠損マウスを用いて空間弁別の神経基盤を解明し、分子から行動までの評価系の確立と評価を実施した。
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