本研究では、動物の性格の個体差に関わる客観指標を確立し、それを種横断的に比較することを目的とする。従来のヒト以外の動物の行動の個 体差研究では,ヒトの個人差研究の指標や手法が前提にあり、それらを応用するものであったが、そのために動物の「擬人化」という本質的な 問題が、個性の適切な評価を阻害していたと考えられる。そこで本研究では、ヒトも動物であるという基本的な事実に立ち返って、まず多様な 動物種の行動観察、測定、評定などのデータにもとづく行動の個体差の基本次元を抽出・モデル化する。それをヒトにも応用することにより、ヒトー動物に共通する個体差次元を抽出し、個性のモデル化を目指す。さらに、客観指標として分子指標を追加する。動物に対する観察や質問紙による個性の評定値と遺伝型との関連を解析し、個性の要因となる候補遺伝子の配列と機能を、鳥類からヒトを含む霊長類までの多様な動物種で、進化系統的に比較する。 1) 個性の評定方法の比較:2019年度に引き続き、イヌや霊長類の、質問紙による性格評定と行動評定を行った。 2) 個性の分子指標の比較:2019年度に引き続き、神経・ホルモン伝達物質にかかわる遺伝子の多型を探索した。またイヌのマイクロアレイを用いてゲノムワイドな指標の探索を行い、候補領域を特定した。 3) 種間比較による共通モデルの作製:霊長類や、イヌ、ネコの情報や解析の成果をモデルに、行動評定については動物種の範囲をウマなどにも拡げて比較した。ゲノム指標については、行動との関連性が見いだされた遺伝子について、鳥類など広範な動物種において種間および個体間で塩基配列を比較し、個性の発現に関与する遺伝子の多様性とその系統発生的ならびに個体発生的な獲得過程について考察した。領域内の他班とも連携して、ヒトを含む動物に共通な個性の評定指標のための質問紙を作成した。
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