研究領域 | 多様な「個性」を創発する脳システムの統合的理解 |
研究課題/領域番号 |
19H04917
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
喜田 聡 東京大学, 大学院農学生命科学研究科(農学部), 教授 (80301547)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 社会記憶 / 社会行動 / 社会識別 / 前頭前野 / 海馬 / 前帯状皮質 / 扁桃体 / 神経回路 |
研究実績の概要 |
1)社会識別を制御する神経回路の同定 C57Bl/6系統マウスを用いて逆行性トレーサーを前頭前野に注入し、前頭前野に投射し、かつ、社会行動発現あるいは社会記憶形成時にc-fos発現を示し脳領野の同定を試みた。c-fos発現が誘導され、かつ、前頭前野に投射する二重陽性ニューロンは社会行動発現時には扁桃体において、一方、社会記憶形成時には前帯状皮質、腹側海馬などに観察された。従って、扁桃体から前頭前野への投射経路は社会行動発現に伴い活性化するのに対して、前帯状皮質や腹側海馬から前頭前野への投射経路は社会記憶形成時にのみ活性化することが示唆された。以上の結果から、前頭前野は社会行動発現と社会記憶形成の両方を制御するものの、社会行動と社会記憶形成を担う神経回路は異なることが強く示唆された。また、扁桃体→前頭前野の経路は未知と既知に関わらず幼若マウス提示により活性化され、社会識別に関与しないことが示唆された。一方、腹側海馬→前頭前野経路は未知のマウスを提示した場合にのみ活性化され、社会識別に貢献することが示唆された。 2)社会識別を制御する神経回路の機能解析 アデノ随伴ウイルスを用いて、海馬の興奮性ニューロンにチャネルロドプシン(ChR2)あるいはアーキロドプシン(ArcT)を発現させて、これらニューロンの活性化あるいは不活性化が、社会行動、社会記憶形成、社会識別に与える影響を解析した。その結果、海馬を社会行動中に不活性化させた場合、海馬不活性化による社会行動の減少が観察された。従って、海馬不活性化は未知のマウスであろうとも、既知のマウスに示すような社会的興味の低下を導く可能性が示された。一方、社会行動終了後に海馬を不活性化させた場合、社会記憶形成が認められなかった。以上の結果から、海馬は社会行動、社会記憶形成、社会識別を制御すると考えられた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
社会識別を制御する神経回路とニューロンの同定が進み、一方、光遺伝学的手法を用いて神経回路及びニューロン群の機能的役割の検証も十分に行えたため。
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今後の研究の推進方策 |
前年度に引き続き、社会識別に対する前頭前野、前帯状皮質、扁桃体、視床室傍核などの重要性を明らかにすることを試みる。特に、視床室傍核など前頭前野と神経回路を形成するものの、社会識別に対する役割が未知である神経回路に着目し、その役割を解析する。社会識別に対する重要性が示唆された領域については、c-fosプロモーター制御下でテトラサイクリン依存的転写因子(tTA)を発現するマウス各脳領野に、ChR2あるいはArcTをtTA依存性プロモーター制御下で発現するAAVを注入して、社会記憶エングラムをラベルし(c-fos-tagシステム)、既知、あるいは、新規のマウスの提示中に、ラベルしたニューロンの細胞体あるいは神経終末を光活性化または光不活性化することで、社会識別に対するこれら脳領野の役割を明らかにする。
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