本年度は、社会的条件づけを自閉スペクトラム症に関係すると考えられる遺伝子変異を持つサル個体に対しておこない、報酬情報の学習速度および神経活動を測定した。神経活動は、内側前頭前野(mPFC)の神経細胞および中脳ドーパミン神経核(DA神経核)のドーパミン細胞(DA細胞)から同時記録した。測定した学習速度および神経活動を、変異を持たないサル個体らのそれらと比較した。その結果、自閉スペクトラム症に関係すると考えられる遺伝子変異を持つサル個体において、報酬情報の学習は、変異を持たないサル個体らに比べて遅かった。また、変異を持つサル個体におけるDA細胞やmPFC細胞の報酬を予測する刺激呈示に対する神経活動の応答は、変異を持たないサル個体らと比較し、優位に早かった。さらに変異を持つサル個体において、領域間の協調活動を示すコヒーレンスが、mPFC―DA神経核間のθ波およびδ波の周波数帯域(おもに4Hz以下)で有意に小さかった。加えてGranger causality解析の結果、変異を持たないサル個体らは、mPFC→DA神経核というトップダウンの神経情報の流れが優勢であったのに対し、変異を持つサル個体では、DA神経核→mPFCというボトムアップの神経情報の流れが優勢であった。これらの結果は、自己および他者の社会的報酬情報処理における生理学的知見、および個体差についての生理学的知見と、自閉スペクトラム症に関する遺伝子レベルの知見とを結びつけた点で重要である。以上の結果をまとめ、現在論文として投稿中である。
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