研究領域 | 多様な「個性」を創発する脳システムの統合的理解 |
研究課題/領域番号 |
19H04921
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研究機関 | 国立障害者リハビリテーションセンター(研究所) |
研究代表者 |
和田 真 国立障害者リハビリテーションセンター(研究所), 研究所 脳機能系障害研究部, 研究室長 (20407331)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 個性 / 多感覚統合 / 身体性 / 自閉スペクトラム症 / 発達障害 |
研究実績の概要 |
本研究では、感覚情報処理の個人差が生み出す身体の「個性」を明らかにするため、認知神経科学的な研究や調査研究を実施する。 昨年度は、身体認知に関連した実験・解析に加えて、発達障害者の感覚の問題に関するWEB調査の解析を進めた。皮膚ラビット錯覚を用いた実験から、自閉スペクトラム症(ASD)者において感覚のポストディクションは保たれる一方で、道具の身体化が生じにくい特性を持った人がASD者の半数~1/3以上を占めることを見出し、それが道具使用の困難につながる可能性について論文公表した(Wada et al., 2020 Sci Rep)。感覚刺激の予測/推定について、触覚・視聴覚など多感覚を用いた課題から、自閉傾向の高い実験参加者では触覚判断におけるベイズ推定の影響が生じにくい一方、視聴覚判断におけるラグアダプテーションは、自閉傾向に関わりなく生じることを見出した。この成果は、R02.12の多感覚研究会で発表した。 さらに、身体の個性を規定する重要なファクターである顔について、表情認知の空間的な特性を調査した。感情を答える課題において、周辺に提示された顔の表情が促進的に影響することを見出した。その効果はASD者と定型発達者(TD)者の間で有意な差はなかった。一方、提示された複数の顔の全体の印象を答えさせる課題を行なわせると、TD者のほとんどが正確に判断できるのに対して、ASD者の半数で、全体の印象としての感情判断が、苦手であることを発見した(Chakrabarty & Wada, 2020 Sci Rep)。 感覚の問題に関する調査では、当事者の悩みとして、聴覚の問題が大きな割合を占めるが、ASD者では触覚や身体の問題が少なからず見られることが見出された。調査の結果について、発達障害情報・支援センターのWEBサイトで公表し、さらに当事者向けの講演等のアウトリーチ活動を行なった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の計画にもとづいて、令和元年度は、感覚運動情報処理に関する認知神経科学的研究や日常生活上の困難と特技に関する調査研究を実施し、道具使用の困難の背景にある認知的基盤を見出した。これらの成果について、論文発表を実現し、さらに身体の個性を深掘りするため、手そのものの表象を評価する実験についてセットアップを行い、予備実験を実施した。本実験についてコロナウイルス感染症の流行が落ち着いた段階での実施を予定している。感覚の問題の調査研究についても、令和元年度には自由記述の解析を広く進めて、調査結果の概要を公表できた。令和2年度には、研究成果をとりまとめて報告する予定である。従って、研究は順調に進捗していると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
当初計画にもとづいて研究を進める。日常生活上の困難と特技の背景にある認知神経基盤の解明を目指して、身体性の個性に対する仮説(触知覚の空間定位不全)を検証する。具体的には、手の表象を調査し、道具使用との関連を考察する。令和元年度にセットアップを行い、予備実験も実施した。本年度の前半で定型発達者を対象とした本実験を行い、ついで障害当事者を対象とした実験を進める。その上で、日常生活上の困難と特技との関連を探りつつ、研究成果を公表する予定だが、コロナウィルス感染症の流行状況を留意しつつ、十分な安全配慮のもと研究を進める。研究の応用としては、共同研究者との連携のもとに、仮説の精緻化を目指すとともに、調査研究の結果をわかりやすくまとめて、ガイドマニュアル的な資料の公表を目指す。
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