研究実績の概要 |
本研究では、感覚情報処理の個人差が生み出す身体の「個性」を明らかにするため、認知神経科学的な研究や調査研究を実施した。 身体認知に関連した心理物理実験と解析に加えて、発達障害者の感覚の問題に関するWEBアンケート調査と解析を行った。皮膚ラビット錯覚を用いた実験からは、自閉スペクトラム症(ASD)者において感覚のポストディクションは定型発達者と変わらず生じる一方で、道具の身体化が生じにくい特性を持った人がASD者の1/3以上を占めることを見出した(Wada et al., 2020 Sci Rep)。感覚刺激の予測/推定について、触覚時間順序判断等を用いた課題から、自閉傾向の高い実験参加者やASD者の多くで触覚判断におけるベイズ推定の影響が生じにくいことを見い出し、感覚情報に忠実な知覚が生じていることが示唆された(Wada et al., 2022 JADD)。 さらに、身体の個性を規定する重要なファクターである顔について、表情認知の空間的な特性を調査した。感情を答える課題において、周辺に提示された顔の表情が促進的に影響することを見出した。その効果はASD者と定型発達者(TD)者の間で有意な差はなかった。一方、提示された複数の顔の全体の印象を答えさせる課題を行なわせると、TD者のほとんどが正確に判断できるのに対して、ASD者の半数で、全体の印象としての感情判断が、苦手であることを発見した(Chakrabarty & Wada, 2020 Sci Rep)。 感覚の問題に関する調査では、当事者の悩みとして、聴覚の問題が大きな割合を占めるが、ASD者では触覚や身体の問題が少なからず見られることが見出された。調査の結果について、発達障害情報・支援センターのWEBサイトで公表し、さらに当事者向けの講演等のアウトリーチ活動を行なった。
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