研究領域 | 生物ナビゲーションのシステム科学 |
研究課題/領域番号 |
19H04927
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
北川 貴士 東京大学, 大気海洋研究所, 准教授 (50431804)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | サケ / 回遊 / ベーリング海 / ナビゲーション / エネルギー収支 / 行動記録計 / 機械学習 / 決定木分析 |
研究実績の概要 |
北海道区水産研究所・北光丸(総トン数1246トン(国際))がベーリング海等で行った第5次航海・夏季さけます資源生態調査(平成31年7月17日~8月9日)において、同海域で索餌回遊中のサケ(体長約60 cm)を釣獲し、37個体に行動記録計(ARCGEO-9TS, Lotek Wireless,Inc., Canada)を装着して放流した。放流個体は早ければ2020年に産卵を行うため母川のある沿岸域に来遊する。記録計が回収された場合、記録計に記録された照度、遊泳深度、環境水温データの解析を行う予定である。 また、岩手県・大槌湾に来遊した本種の行動に影響を及ぼす環境要因について、機械学習のひとつである決定木分類を用いて、複数の要因から湾内での移動経路(2015~2018年に計測)に影響を及ぼす重要な環境要因を推定し、その程度について検討した。同湾において10分間隔で計測された気象データ(水温、気温、湿度、気圧、日射、降水量、風速、風速の東西成分、風速の南北成分、風向の東西成分、風向の南北成分)から、各個体の放流から河川進入までの時間分を抽出した。各環境要因の時系列変化に関する特徴量8734種を生成後、特徴量選択を行った。選択された上位1~20個の特徴量を用いて、決定木分析とその正解率の評価を行った。特徴量選択の結果、「風速の東西成分の遅れ60分の自己相関係数(以下「風・R(6)」)」が最上位に選択された。また、風・R(6)のみを特徴量として用いた決定木の正解率が76.2 %となり、特徴量の数を増やしても正解率に大きな変動は見られなかった。このことから、移動経路には主に風・R(6)が影響していることが示された。西寄りの風が大槌湾内の河川水の張り出しに影響するため、遡上個体の移動経路に大きく影響したものと考えられた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
申請時の計画通り、ベーリング海で索餌回遊中のサケに行動記録計を装着し、同海域で放流することができた。また、超音波計測により得られた、大槌湾内での本種の水平移動に関するデータの解析を、機械学習を導入して行うことができた。具体的には、機械学習のひとつである決定木分析を新たに導入し、各種気象データ(11種)より生成された各環境要因の時系列変化に関する特徴量(8734種)から、移動経路に影響を及ぼす重要な要因を推定し、その程度について検討することができた。
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今後の研究の推進方策 |
2020年度もベーリング海およびオホーツク海において、行動記録計を装着したサケの放流調査を実施し、放流海域から沿岸への来遊過程、遊泳行動を計測する。また、2019年度にベーリング海で放流した本種に装着した記録計が回収された場合、記録計に記録された照度データより個体の位置(経緯度)推定を行うことで、ベーリング海から沿岸までの回遊経路を明らかにし、回遊経路に影響を及ぼす環境要因について検討をすすめていく予定である。回遊経路データおよび30秒ごとに記録された深度や水温といった膨大な時系列データについては、機械学習などを導入して解析を進めていく。また、クロマグロをはじめとした他の高度回遊性魚種の移動・行動データの解析についても同様に機械学習などの新たな手法を導入していき、データ科学分野とのコラボレーションを強化していきたい。
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