研究領域 | 生物ナビゲーションのシステム科学 |
研究課題/領域番号 |
19H04930
|
研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
志垣 俊介 大阪大学, 基礎工学研究科, 助教 (50825289)
|
研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2021-03-31
|
キーワード | アニマル・インザ・ループ / 昆虫用バーチャルリアリティシステム / 異種感覚統合 |
研究実績の概要 |
本研究では, アニマル・インザ・ループという新しいコンセプトを基盤に昆虫が持つ適応的な嗅覚ナビゲーションシステムを解明し,ロボットシステムに再構成することを目的とする.アニマル・インザ・ループシステムとは,ロボットと昆虫を一つの制御系として構成し,制御器である昆虫は自身の体ではない機械身体を遠隔で制御することでタスクを行うという系である.つまり,この系には昆虫に異種刺激を提示し,行動を計測するためのバーチャルリアリティシステム(VR)と昆虫のアバターとして実空間を移動する自律移動体から構成される.2019年度は,研究計画に従い昆虫用VRの構築と評価実験を実施した.嗅覚ナビゲーションを行っている最中に昆虫は嗅覚だけでなく視覚や風向情報を使っていることが予想される.そのため,昆虫用VRには嗅覚・視覚・風刺激を同時に提示できる刺激装置を実装した.評価実験として,昆虫用VRを計算機上の仮想空間と接続し,嗅覚ナビゲーションを実施した.その結果,昆虫は実環境で発揮する嗅覚ナビゲーション性能と同等の性能を示したことから,昆虫用VRの構築に成功したと判断した.また,嗅覚と風刺激を同時に提示した実験では,昆虫は風向依存的に移動速度の調整を行っていることが示唆され,それが嗅覚ナビゲーション性能を向上させることを構成的解析により明らかにした.これらの成果は,査読付学術論文誌3編,査読付国際会議講演3件,招待講演2件,ほかにおいて発表された.
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では,アニマル・インザ・ループという新しいコンセプトを基盤に昆虫が持つ適応的な嗅覚ナビゲーションシステムの解明とロボットシステムへの実装である.これが実現されれば,直視不可能な有毒物質等の漏洩源や危険物質,被災者の所在等を発見するロボットシステムを可能にし,我々の安全安心に寄与する. アニマル・インザ・ループシステムの構成要素は,昆虫ための行動計測装置と昆虫のアバターとして実空間を移動する自律移動体である.2019年度は,研究計画に従い,昆虫に嗅覚・視覚・力覚(風)刺激を同時に提示し,刺激に応じた行動を計測可能なバーチャルリアリティシステム(VR)を構築した.システム検証実験として昆虫用VRシステムを計算機上の仮想空間に接続し,実際の昆虫に嗅覚ナビゲーションを行わせた.その結果,昆虫は実空間で嗅覚ナビゲーションを行っている時と同等の性能を発揮したことから,昆虫用VRシステムによって昆虫を錯覚させることが可能であることを明らかにした.また,匂いと風刺激を同時に与えた際のナビゲーション行動の解析を行ったところ,風向によって行動調整がなされていることを明らかにした.これらの成果は,査読付きの学術誌や国際会議,招待講演により国内外に発信し,賞を受賞したことから注目された.以上より,2019年度の研究成果は十分に得ることができたと判断した.
|
今後の研究の推進方策 |
2019年度は,昆虫用VRシステムと計算機上の仮想空間と接続し,昆虫の嗅覚ナビゲーション実験を実施した.2020年度は,2019年度に構築したシステムを拡張し,昆虫用VRシステムと自律移動体を接続し,室内外で嗅覚ナビゲーション実験を実施する予定である.昆虫はナビゲーション中に異種の感覚を統合することで,効率的にナビゲーションを実施していると考えられる.そのため,昆虫がどのようなシステム構造となっているかを明らかにすべく,実験を実施する上で嗅覚・視覚・力覚(風)の提示方法に介入し,自然界では生じ得ない状況を作り出すことにより昆虫の適応性の抽出を試みる予定である.しかしながら,2020年度前半は,世界的な新型コロナウイルスの感染拡大により,生物実験の実施を一時中断しなければならない状況にある.そこで,2019年度で取得したナビゲーション実験データに対して情報エントロピを計算し,昆虫のナビゲーション戦略を情報論的に机上解析することで補完的に進める. 感染拡大が収束した後に,室内外におけるナビゲーション実験の実施によりデータを拡充し,ナビゲーションアルゴリズムの数理モデル化につなげる予定である.先に進める机上解析結果を統合することにより,ナビゲーション実験の遅れを取り戻す所存である.以上より,モデル生物の嗅覚ナビゲーション行動の解析,シミュレーションによる情報エントロピ推定等を行い,ナビゲーション機能を搭載したロボットシステム構築のための知見を得る予定である.
|