本研究は、ミツバチの巣内でのコミュニケーション行動と野外での採餌飛行を継時的に観察し、その関係を解析することで、個体における空間認識の様式とそれが形成される過程を明らかにすることを目的としている。ドイツ・ベルリン自由大学との共同研究により、高調波レーダーシステムを用いて、ミツバチの野外での採餌飛行軌跡を記録をトラッキングし、採餌・コミュニケーション履歴と環境中のランドマークや餌場の質との関連を探る計画であった。 2019-2021年度にわたる新型コロナ肺炎の感染拡大のため、予定していたドイツでの野外実験は遂行できていない。そこで今年度も引き続き、これまでに同様の実験環境で取得した既存のデータを用い、巣内でのコミュニケーションと採餌飛行の履歴との解析をドイツおよび日本双方で分担してすすめた。日本側では、巣内のおよそ500個体の継続観察データを用いて、各個体のダンス行動、ダンス追跡行動および餌場訪問の履歴を網羅的に解析した。その結果、初めての餌場に訪問する場合と既知の餌場に訪問する場合とで巣内でのダンスおよびダンス追随の行動パターンに違いがあること、特に個体の初めての採餌成功の直前にダンス追随行動の顕著な増加が見られること、初採餌成功の直後から巣外活動時間の顕著な減少が見られることが明らかとなった。この巣外活動時間の減少は、探索経路の変化を反映していると考えられれることから、ドイツ側で解析中の飛行軌跡の変容を定量的に解析中である。以上の結果を総合し、個体のナビゲーションの経路選択に関わる巣内、巣外の要因について考察する予定である。
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