公募研究
細胞性粘菌アメーバや好中球は全長10マイクロメートル程で約毎分10マイクロメートルで動くアメーバ細胞である。誘引物質等が無い状況でアメーバ細胞が移動方向を決める仕組みは、これまで不明であったが、最近研究代表者らはこれらのアメーバ細胞が基質の硬さを感知して柔らかい方向に進むことを発見した。これは“磁場”等の環境情報を感知し移動方向を決める渡り鳥のナビゲーションと本質的に変わらない。アメーバ細胞は“基質の硬さ場”という環境情報を感知しナビゲーションを行っているのである。脳を持たない細胞のナビゲーションは、情報処理を細胞内各所で行う自律分散システムのメカニズムを持つと考えられる。本研究の目的はアメーバ細胞ナビゲーションのメカニズム解明である。アメーバ細胞は仮足を前方で伸展させると同時に後端を退縮させて前進する。後端の退縮はアクトミオシンの収縮によって起こる。我々は細胞が基質の硬さを認識して方向決定を行うメカニズムを、基質の柔らかさを細胞が感知して、そこへミオシン II を集積させ、形成されたアクトミオシンが収縮することだと考えた。これを証明するために今年度は、硬さの異なる基質上に細胞性粘菌アメーバをおいたとき、細胞の形状や運動がどのようになるか、硬さによってどのように異なるかを検討した。硬い基質上では、仮足の伸展頻度が有意に上がること、ミオシン II が進展方向に事前に進展した仮足の先端で集積することが分かった。
2: おおむね順調に進展している
新型コロナウイルス感染症流行の影響で、対面でのミーティングや学会集会が殆どなくなったが、オンラインでの置き換わりが速やかに展開されて、あまり影響を受けずにすんだ。研究内容に関しては計画に沿って進行していると考えている。
細胞性粘菌アメーバでは、常時太いフィラメントを形成するミオシン II、フィラメントを全く形成できないミオシン II、フィラメント形成は通常通り行えるが ATPase 活性を失っているミオシン II というそれぞれ変異ミオシン II を容易にミオシン II 欠損細胞に発現させることができる。これらのミオシン II 変異体を細胞に形質導入した細胞性粘菌アメーバに機械的な刺激を与えると、ミオシン II の集積箇所や集積速度など詳細な検討をすることができると期待される。その効果を見る新しい実験手法を検討し、実験を行う。同時に、想定しているアメーバのナビゲーションのメカニズムに沿うモデルの作成を検討している。
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PloS one
巻: 14 ページ: e0214736
10.1371/journal.pone.0214736