鳥や魚などの生物の集団として振る舞いは長く研究対象として注目されてきたが,群行動を精緻に計測し,群れのナビゲーションのメカニズムを解明する試みは限られている.そこで,群になって行動している生物を撮影した映像からその動きを獲得するための「汎用映像処理プラットフォーム」を構築してきた.本年度の研究実績の概要は以下のとおりである. (1) 魚の検出・追跡に関する基礎技術の構築 まず,水槽の中を遊泳する魚の検出を行うために,環境変化に対応して魚を高精度で検出する手法を考案した.この手法では水槽に設置されている器具や水面の照り返しで水面が観測できない領域を泳ぐ魚の様子を周囲から予測する機能も実装している.また,魚の動きをより詳細に知るために,その姿勢をパラメトリックに表現するモデルを導入し,そのパラメータを精度良く推定する方法を考案した.この手法は姿勢の時系列変化をモデル化できるので,異常検知や姿勢変化の予測への活用が期待できる. (2) コウモリの生態観測のための3次元計測 新学術領域「生物移動情報学」に参加している生態学を専門とする研究者と協力して,飛翔するコウモリの3次元軌跡を推定する手法を考案した.この手法では洞窟から出現するコウモリをステレオカメラで計測し,画像処理による検出,カメラ間の対応付け,3次元軌跡の復元を行っている.これによって,トンネルから出現するコウモリの尾数の傾向や,複数のコウモリが協調して飛行する様子を詳細に観測できるようになると期待される.また,コウモリが飛翔している暗い空間の中でもその位置を精度良く得るための手法を考案し,その基本的有効性を確認した.
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