生体中において一回膜貫通型受容体は種々の局面で重要な役割を果たしている。例えば免疫において微生物など病原体の構成成分は一回膜貫通型受容体であるToll-like receptors (TLRs)などの病原体センサーによって認識され様々な免疫応答を引き起こす。これら一回膜貫通型受容体は、様々な病気の治療薬のターゲットとされている。しかし、一回膜貫通型受容体の機能発現機構は主に細胞外のシグナル受容ドメインと細胞内のシグナル伝達ドメイン個別に研究されてきた。そのため、細胞外ドメインと細胞内ドメインの間で細胞膜を介してどのような協働性が存在してシグナルが伝達されるのかに関する実験的証拠があまりにも乏しいため、現状では前者と後者の間の関連性はほとんど憶測の域を出ない。本課題では,主に全長の受容体を用いてこの細胞外ドメインと細胞内ドメインの協働性を構造生物学的に明らかにし、真の意味でのリガンド認識とシグナル伝達機構を明らかにすることを目的とする。 今年度は、まずTLR全長の活性化状態のクライオ電子顕微鏡解析を進めた。TLR全長を脂質環境を模したナノディスクに再構成した試料を用いて解析を進めた。その結果、TLR3全長の活性化型2量体を再構成したナノディスク試料について、4オングストロームを超える解像度の密度マップを得ることに成功した。TLR3の細胞外ドメインとリガンドである二本鎖RNAの密度は明瞭に確認することができた。しかし、TLR3の膜貫通領域および細胞内のTIRドメインに関しては密度を確認することができなかった。これは、TLR3の細胞外ドメインが膜に対して柔軟性を有していることを示唆する。クロスリンクにより安定化する、脂質二重膜の膜組成を最適化する、アダプター分子との複合体を形成させる、などしてTLR3の細胞外ドメインと膜貫通領域の間の柔軟性を制限する検討を行い、脂質二重膜上での活性化型のTLR全長の構造解析を目指す。
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