研究領域 | 数理解析に基づく生体シグナル伝達システムの統合的理解 |
研究課題/領域番号 |
19H04957
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
嘉村 巧 名古屋大学, 理学研究科, 教授 (40333455)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | シグナル伝達 |
研究実績の概要 |
細胞内エネルギーの恒常性を維持することは正常な生命活動を行う上で重要である。その中心的な役割を担っているのは、出芽酵母においてはSnf1キナーゼでありエネルギー状態のセンサーとして機能し、糖シグナル伝達経路の活性を制御している。われわれは、ユビキチンープロテアソーム依存性タンパク質分解により制御される生命現象の解明を目的の研究を進めているが、その過程で、出芽酵母キナーゼタンパク質Tda1の分解を制御するE3を新たに同定した。Tda1は、最近出芽酵母に3種類存在するヘキソキナーゼの1つであるHxk2をリン酸化することが示されているが、一方ではSnf1がHxk2をリン酸化するという報告もある。また我々は低グルコースあるいは非発酵性炭素源環境下でTda1がSnf1によって速やかにリン酸化修飾を受けることを見出しており、Tda1が糖シグナル経路に関与していることが示唆された。そこで本課題では、Tda1のE3による分解制御および糖シグナル伝達における役割に焦点を当てて研究を進めている。まず低グルコースあるいは非発酵性炭素源環境下におけるSnf1によるTda1のリン酸化修飾を詳細に調べた。Snf1はSnf4およびGal83/Sip1/Sip2からなる複合体を形成しているが、この中でSnf1とSnf4はTda1のリン酸化に必要であったが、Gal83/Sip1/Sip2は不要であった。また試験管内リン酸化反応においてSnf1が直接Tda1をリン酸化修飾することを確認した。続いてHxk2のリン酸化修飾を検討した。その結果、低グルコースあるいは非発酵性炭素源環境下で活性化したSnf1によりTda1がリン酸化され活性状態なることによりHxk2をリン酸化することを見出した。試験管内リン酸化反応においても同様な結果を得ている。今後Tda1の糖シグナル伝達における役割解明をさらに進めていく予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究ではTda1の糖シグナル伝達における役割解明を目的としている。Tda1の活性化が非発酵性炭素源環境下で活性化したSnf1依存的であることを見出している。さらにはHxk2のリン酸化修飾がSnf1によるのか、あるいはTda1によるのかが不明であったが、我々の研究により、実は両方必要であることを明らかにした。すなわち、低グルコースあるいは非発酵性炭素源環境下で活性化したSnf1によりTda1がリン酸化され活性状態になる。そしてこの活性化したTda1が直接Hxk2の15番目のセリンをリン酸化することを質量分析を用いて明らかにしている。さらに現在Tda1の糖シグナル伝達における役割解明をさらに進めている。これらのことより、おおむね順調に進展していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
1. Tda1によりリン酸化修飾を受けるタンパク質の同定 Tda1はキナーゼであることより、糖シグナルを下流因子のリン酸化を介して伝達することが考えられる。野生型およびtda1欠失株を高グルコースあるいは非発酵環境下で培養しタンパク質を回収する。リン酸化ペプチドを濃縮後、質量分析器で測定し、Tda1依存的にリン酸化を受けている分子を同定する。今回は糖シグナル伝達に関連する分子に注目して解析を行う。 2. Tda1により発現が制御される遺伝子群の検討 Tda1がどのような遺伝子群の発現に関与しているかを検討する。野生型、tda1欠失株およびsnf1欠失株を高グルコースあるいは非発酵環境下で培養しRNAを回収し、次世代シークエンサーを用いてそれぞれの遺伝子の発現量を測定する。
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