研究領域 | 数理解析に基づく生体シグナル伝達システムの統合的理解 |
研究課題/領域番号 |
19H04958
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
花房 洋 名古屋大学, 理学研究科, 准教授 (00345844)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | LRRK1 / EGFR / endosome |
研究実績の概要 |
上皮成長因子受容体(EGFR)シグナルは細胞の増殖・分化・遊走に重要であるとともに、その破綻は細胞のガン化に直結する。最近の研究から細胞膜上で活性化したEGFRは、細胞内に取り込まれた後も、エンドソーム膜上からシグナルを発信し続けることが明らかとなってきた。また細胞が晒されるEGF量に応じて、活性化したEGFRの細胞内トラフィックが変化(低濃度のEGF:リサイクル経路、高濃度のEGF:リソソーム分解経路)し、細胞を過剰な刺激から守りつつ、生理的に重要な刺激に対してシグナルを十分に増幅させていることが明らかとなってきた。このようにEGFR細胞内トラフィックは、EGFRシグナルの時空間的制御に重要な役割を果たしている。我々はこれまでROCOファミリーキナーゼLRRK1が、EGFRの細胞内トラフィックを制御することで、EGFRシグナルのダウンレギュレーションに重要なことを明らかにしてきた。そこでLRRK1によるEGFR細胞内トラフィック制御に焦点を絞り、メンブレントラフィックによるEGFRシグナル制御の数理モデルを構築する。昨年度の研究から、細胞が高濃度のEGFに晒された際、リサイクル経路ではなくリソソーム分解経路に選別されるのにLRRK1が重要なことを見出した。EGFRのユビキチン化は、ESCRT複合体によるエンドソーム内腔への取り込みおよびリソソームへの移動に重要なことが知られている。高濃度のEGF刺激で、EGFRは効率よくユビキチン化されるが、このユビキチン化されたEGFRとLRRK1が相互作用し、ESCRT複合体による選別に機能する可能性が明らかとなった。さらにEGFRのエンドソーム内腔への取り込みと、リソソームへの輸送が協調して行われるステップにLRRK1が重要な働きをしていることを明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
メンブレントラフィックがEGFRシグナルをどのように制御しているのか、LRRK1による制御機構を中心に解析を進めた。その結果、LRRK1が低分子量Gタンパク質Rab7をリン酸化することで、EGFRを含むエンドソームの微小管上の輸送を促進することを明らかにした。同時にLRRK1は、ユビキチン化されたEGFRとESCRT複合体との結合促進や、フォスファターゼPTP1BによるEGFRの脱リン酸化を促進し、EGFRをリサイクル経路からリソソーム分解経路へと選別するのに機能していることを明らかにした。このようにEGFRシグナルの時空間制御における分子基盤の解明は、期待以上に進んでいる。一方で、これらのデータを基にした数理モデルの構築については、LRRK1抗体が内在性LRRK1の細胞内挙動や発現量を検出するのに十分な感度でないことなどから、パラメーター取得のための情報が十分でなく、思うように進んでいない。これらの状況を踏まえ、総合的にみて概ね順調に進んでいると思われる。
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今後の研究の推進方策 |
今後はメンブレントラフィックによるEGFRシグナル制御機構のさらなる解明と、数理モデルへの適応を目指す。具体的には、LRRK1によるEGFRリソソーム分解経路選別について、小胞体上のPTP1Bが、コンタクトサイトを介してエンドソーム上のEGFRを脱リン酸化する機能を明らかにする。これまでPTP1BによるEGFRの脱リン酸化、シグナルダウンレギュレーション及びエンドソーム内腔への取り込みは、明らかとなってきたが、興味深いことにPTP1Bは、LRRK1自体も脱リン酸化していることを見出した。PTP1BによるLRRK1の脱リン酸化は、LRRK1のキナーゼ活性上昇とリンクしており、この制御機構の解明も進める。さらにエンドソーム上のマイクロドメインに、EGFRを集積するステップについても解析する。数理モデルに関しては、引き続き、LRRK1などの内在性タンパク量の測定や、EGF刺激後どのようなタイムコースでエンドソーム局在が変化していくのか計測し、モデル作成に必要なパラメーターの取得を目指す。
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