研究領域 | 数理解析に基づく生体シグナル伝達システムの統合的理解 |
研究課題/領域番号 |
19H04961
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
木内 泰 京都大学, 医学研究科, 准教授 (70443984)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 超解像イメージング / 細胞内シグナル伝達 |
研究実績の概要 |
細胞内シグナル伝達は、多数のシグナル分子の結合解離を基盤としている。この現象の数理解析を難しくする問題として、分子の細胞内濃度や解離定数が未知なだけでなく、足場タンパク質や細胞内構造への局在、複合体形成による濃度や解離定数の局所的な変化が挙げられる。この細胞内シグナル伝達の空間的なネットワークが、シグナル伝達に秩序と方向性を与えていると予想される。この細胞内シグナル伝達の実像を理解するためには、シグナル分子群の局在や細胞内構造を同一の細胞で可視化する必要がある。本研究では、多種類のタンパク質を連続多重染色でき、高密度染色による精細な画質を実現した超解像顕微鏡法IRISを用いて、EGFシグナル伝達に関わる分子群と細胞内構造の超解像マップを作成する。EGF受容体のエンドサイトーシス部位には、様々な分子が集積し、細胞内にシグナルを伝える。この部位での分子分布の詳細を可視化するためにエンドサイトーシス関連タンパク質に対する結合解離プローブを作製し、先行研究ですでに作成しているアクチンや接着斑に対するプローブと合わせて多重染色超解像可視化を行った。その結果、細胞底面のClathrin coated pitsで、それぞれの分子の特徴的な分布を可視化することに成功した。これらの新規に作製したプローブに関しては、日本メカノバイオロジー研究会(2019.9 直島)で報告を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
IRIS超解像顕微鏡法では、標的に結合解離するプローブを用いて、標的を可視化する。これまでアクチン骨格や微小管、中間径フィラメント、接着斑に結合解離するプローブを作製し、細胞骨格や接着斑の多重染色超解像イメージングを行ってきた。本研究では、さらにエンドサイトーシス部位に局在するタンパク質に結合解離するプローブの作製に成功し、それらの分子の超解像画像を得ている。さらに励起レーザーをシート状に斜めから入射するHILO照明と補償光学系を導入することで、IRISを3次元イメージングへと発展させた。3次元IRISイメージングによって、細胞骨格とシグナル分子の空間的な位置関係の詳細を解析する準備を整えている。
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今後の研究の推進方策 |
EGF受容体を起点とする細胞内シグナル伝達の空間ネットワークを解析する。EGF受容体は、細胞膜全体に一様に分布しているにも関わらず、細胞外のEGFと結合するEGF受容体は、細胞の背側や細胞周縁の腹側に分布するものに限定されていることが、様々な細胞で報告されている。加えて細胞内に取り込まれたEGF受容体を含む小胞やエンドソームには、多種類のシグナル分子が局在している。これらのことから、細胞膜のEGF受容体や細胞内に取り込まれたEGF受容体を起点としたシグナル伝達には、空間的な偏りが存在すると推定されている。さらにアクチン線維がEGFと結合できるEGF受容体の空間的な分布の維持に関与していること、接着斑近傍ではエンドサイトーシスが遅くなることも知られている。細胞外から加えられたEGFによって、細胞膜で閉ざされた細胞質では、単純な反応拡散方程式で記述されるようにシグナル伝達が進むのではなく、おそらく膜構造や細胞骨格、接着構造といった空間的な構造情報を利用して、シグナル伝達に方向性と秩序を生み出していることが予想される。本研究では、EGF受容体を起点として伝播するシグナル伝達の空間ネットワークを蛍光1分子イメージングと3次元多重染色超解像顕微鏡法IRISを駆使して解析し、その得られたデータに基づいて数理解析を行う。
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