公募研究
組織形成の過程では細胞間の接着力や張力の違い、さらに運動の制御といった様々な要因が関与することが知られており、古くから数理モデル化による理解が進められてきた。実際の組織には多様な細胞形態が含まれ、これら複数種類の細胞間での相互作用によって組織形成が進むが、これらを同時に適切に扱える数理モデルは、いまだ存在しない。本研究では鼻腔の嗅上皮での細胞の再配列運動をモデルに、細胞間の接着を起点としたシグナルによる接着力と張力の制御メカニズムを明らかにした上で、多様な細胞形態や相互作用を含む新たな組織形成モデルの構築を目指す。嗅上皮では嗅細胞と支持細胞の2種類の細胞が自ら動いて特徴的なモザイクパターンに並ぶ。この自律的な再配列運動の過程を詳細に見ると、2種類の細胞はそれぞれ異なるネクチンを発現しており、同種細胞間よりも異種細胞間の接着力が強いという胞間の接着力の差が駆動力となって、細胞の割り込みが引き起こされてモザイク様に並ぶ。割り込みを伴う並び替え運動には、接している細胞辺ごとの接着力の差とともに、ミオシンを介した接着面の収縮が必要であることがわかっている。本年度は、嗅上皮の再配列の過程における細胞間の接着分子や細胞骨格の局在の変化を指標に両者の関係性を検討した。また、3細胞の交点となるトリセルラージャンクションに着目し、3重点において接する3つの細胞がつくる角度の計測を行うことで、接着力と張力の関係性を検討した。また、研究協力者らとともに従来のモデルでは表現することが出来ない曲線などの多様な形態を含む上皮構造を再現するための新たな数理モデル「界面ネットワーク運動モデル」の構築を行っている。
2: おおむね順調に進展している
発生過程の嗅上皮組織が自らモザイク様に並ぶ様々な段階で、同種細胞間と異種細胞間で接着力と張力の時間的変化の推測を細胞接着分子と細胞骨格に対する免疫染色により行った。また、両者の関係性をさらに明らかにする目的で、EGFPやmCherryといった蛍光タンパクを融合させたカドヘリン、αカテニンやアクチン分子を発現させた培養細胞を用いた細胞選別実験のライブイメージングを行った。これらの実験から得られた接着力と張力の数値を使って、界面ネットワーク運動モデルによるシミュレーションを行い、嗅上皮の細胞再配列とともに培養細胞の細胞選別を表現するモデルの構築と精緻化を行った。
本年度までに、研究協力者らと取り組んできた新しい数理モデル「界面ネットワーク運動モデル」の基本部分ができあがり、現在投稿中である。このモデルは、接着力を唯一のパラメータとして、従来のモデルでは表現することが出来なかった曲線などの多様な形態を含む上皮構造やパターンの変化を再現することができるようになった。一方、組織における細胞のパターン形成は接着力の違いによって大まかに説明ができる一方、接着力だけでは詳細な部分までは説明できないことも明らかになってきた。そこで、上記モデルにおいてパラメータを追加することで精緻化を進める予定である。現在、そのために嗅上皮組織や培養細胞を用いた接着力や張力などの計測を積極的に進めている。
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すべて 雑誌論文 (3件) (うち国際共著 3件、 査読あり 3件) 学会発表 (5件) (うち招待講演 4件)
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