研究領域 | 数理解析に基づく生体シグナル伝達システムの統合的理解 |
研究課題/領域番号 |
19H04969
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研究機関 | 新潟大学 |
研究代表者 |
松本 雅記 新潟大学, 医歯学系, 教授 (60380531)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | プロテオミクス / シグナル伝達 |
研究実績の概要 |
本研究では我々が独自に開発したタンパク質精密絶対定量プラットフォームであるiMPAQT法が有するいくつかの技術的限界を完全に克服するための技術開発を行い、様々な細胞システムにおける広範なシグナル伝達経路の全体構造を定量的に記述する手法の確立を試みる。さらに、確立された新しい技術基盤によってシグナル伝達経路の定量的構造を明らかにし、これまでに構築してきたシグナル伝達ダイナミクス計測技術と併用することで、シグナル伝達の特異性や多様性を生み出す動作原理の解明を最終的な目的としている。H31年度は以下の二つの項目に関して技術開発を行った。 1.高度多重化連結体タンパク質の構築: 現行iMPAQTを更に利便性や信頼性を向上させる目的で、a) iMPAQTデータベースから超高感度なプローブペプチドだけで構成される連結体をデザインをアシストするデータベースおよびツールの開発を行った。さらに、超多重化のためのペプチドバーコードタグの構築を行い、100種類の連結体の一斉定量が可能になった。また、リジン・アルギニン要求大腸菌株を作製し、利用することで99.7%同位体標識率を達成できた。 2.Sequentially Linked Mass-spectrometry (SLiM) 法の確立: 高スループットなHyper Reaction Monitoring(HRM)と超高感度なMultiple Reaction Monitoring (MRM) 法を連動させて計測するSequentially Linked Mass spectrometry (SLiM) 法を可能とするソフトウェアの開発を行った。HRM法をより高感度に行うための手法として、気相分画法を取り入れ、これで得られたデータを容易に解析できるツールも開発した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初予定していた、二つの技術開発をほぼ完了し、新たな解析基盤の構築に目処がたった。現在、研究代表者の異動に伴い、建物の工事などの影響で長期にわたって研究の中断が続いているが、前倒しで研究が進んでいたため、現時点では当初の計画は全て完了することができている。 また、本研究課題で開発した技術によって、がんの悪性進展と代謝経路の再編成の関係 (Nat. Commun 2020)や、細胞周期依存的なプロテアソームの核内局在(Sci. Rep. 2020)などを明らかにすることができており、本技術のシグナル伝達研究における有用性を実証することができた。
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今後の研究の推進方策 |
H31年度に開発がほぼ終了したiMPAQT ver.2を用いて様々なシグナル伝達経路などに関与するタンパク質の絶対定量を行う予定である。すでに計測対象となる細胞株の収集等は終えており、研究設備が整った時点で計測を開始する予定である。 しかしながら、新型コロナウイルス感染症拡大によって、さらに研究設備の利用開始が遅れる可能性が高い。実験を中心とした研究ができない間は、データ解析ソフトウェアの最適化など、本研究をより効率よく行うための情報基盤の整備を中心に行うことで、研究再開した後の研究を加速できるよう努める予定である。
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