研究領域 | 数理解析に基づく生体シグナル伝達システムの統合的理解 |
研究課題/領域番号 |
19H04973
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
大澤 匡範 慶應義塾大学, 薬学部(芝共立), 教授 (60361606)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | リン酸化シグナル / 14-3-3 / 結合親和性 / 複合体構造 |
研究実績の概要 |
多くのがん細胞においては、遺伝子変異によるRas タンパク質の活性化を起源として、その下流にあるキナーゼを活性化し、そのキナーゼは連鎖的に別のキナーゼをリン酸化・活性化する。このようなリン酸化シグナルの連鎖と増幅が、がん細胞の増殖能や浸潤能を高める。 Ser/Thr のリン酸化によるキナーゼの活性化は、14-3-3ζ の結合により持続・亢進し、14-3-3ζ の結合阻害により抑制されることが分かってきた。したがって、がんにおけるリン酸化シグナルの数理モデルを確立するためには、14-3-3ζ と各キナーゼの結合親和性や、その基盤となる複合体の立体構造を明らかにする必要がある。そこで本研究は、14-3-3ζの結合により活性化されるキナーゼや転写因子など(14-3-3ζのclientタンパク質)の全長、あるいは、14-3-3ζとの相互作用部位全体を用いた結合親和性の定量的解析、両者の複合体のX線結晶構造解析を行うことにより、リン酸化シグナルの数理モデルを構築する上での熱力学的・構造生物学的基盤を確立することを目的とする。 本年度は、14-3-3ζのclientタンパク質のうち、キナーゼ3種類、転写因子2種類の大量発現系を構築し、大腸菌をホストとした大量発現・精製を試みた。これまでに、キナーゼおよび転写因子の各1種類について、大量発現・精製法確立に成功した。キナーゼについてはサイズ排除クロマトグラフィーにより多量体状態の解析を行い、単量体~2量体で存在することが分かった。現在、酵素処理によるリン酸化条件を検討している。転写因子については、これを基質とする別のリン酸化酵素によるリン酸化に成功した。GST融合14-3-3ζを用いたグルタチオンセファロースによるプルダウンアッセイにより、14-3-3ζとリン酸化した転写因子の高親和性結合を確認した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の計画は、以下の通りであった。 (1) 14-3-3ζのclient タンパク質の大量調製法の確立、性状解析・活性確認 (2) 14-3-3ζとclient タンパク質全長(相互作用部位全体)の結合親和性の定量解析 (3) 14-3-3ζとclient タンパク質全長(相互作用部位全体)の複合体の結晶化 (4) 14-3-3ζと阻害剤BA およびUTKO1 との相互作用解析、複合体の立体構造解析
これまでに、(1)については、転写因子およびタンパク質キナーゼの大量調製に成功し、特に転写因子についてはリン酸化方法を確立し、プルダウンアッセイによりリン酸化の有無による14-3-3ζとの結合親和性の変化の検出に成功した。(2)、(3)への取り組みを開始したところである。(4)については、未着手である。
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今後の研究の推進方策 |
当初の計画の(2)、(3)については、結晶化に成功し次第、X線結晶構造解析を行う。 また、大量調製法が確立できていない転写因子とタンパク質リン酸化酵素については、発現条件の検討を行う。
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