研究領域 | 人工知能と脳科学の対照と融合 |
研究課題/領域番号 |
19H04983
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
濱口 航介 京都大学, 医学研究科, 講師 (50415270)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 内部モデル / 二光子カルシウムイメージング / 光遺伝学 / 機能マッピング |
研究実績の概要 |
移動や時間の経過によって環境が変化する実世界では,脳にとって,そして人工知能にとっても,モデルフリーの行動選択と,モデルベースの行動選択の回路を適切に組み合わせる必要がある.我々は先の公募研究において,有限の報酬(エサ)といった物理的制約であれば,げっ歯類が内部モデルを獲得しうる事を明らかにした.例えば,現実の世界では,資源は有限である.我々は,のどの乾いたマウスが,ある選択肢に割り当てられた水の量が有限であることを学習し,あたかも水の残量を数えるかのような行動をすることを明らかにした.このマウスは学習が進むにつれ,水がなくなる前に別の選択肢を取る,予測的な行動が増えていった. この予測的な行動を行う神経メカニズムを明らかにするため,我々はマウスの2次運動野(M2)の一領域,Anterior Lateral Motor, (ALM)と呼ばれる領域に着目した.この領域には,運動準備に関わる神経細胞が存在する事が知られている.2光子顕微鏡を用いたカルシウムイメージング法を用いて神経活動を長期的に観測したところ,運動準備を表現するとされていた細胞集団が,運動開始の5~7秒前から価値を表現することが明らかになった.また学習後期のマウスでは,水の残量によく相関した行動価値を表現していた.予測的な選択肢の変更という,学習後期マウスでのみ見られる行動は,行動価値が予測的に減ってしまうために起こると考えられる.このような活動は,学習初期のマウスでは見られなかった.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
上述のALM領域で見られる価値計算が,本当に行動選択に使われているのか確認する必要がある.これを確かめるため、チャネルロドプシン2が抑制性神経細胞に発現しているマウスを用い,課題中に皮質の様々な場所を抑制する実験を行った.ランダムスキャン方式でレーザー光を走査し,透明なセメントで固めた頭蓋骨を通して脳表を多点刺激できるデバイスを開発した.この方法で皮質領域がどの程度抑制できるのか明らかではなかったが,シリコンプローブを用いた計測を通じて,1mm四方,深さ500μmまで抑制可能な事がわかった. この操作系を用いALMの神経活動を運動準備中に抑制すると、予測的な行動ができなくなり、水が出なくなっても同じ選択肢に固執する傾向が強くなった。これは予測的な行動価値が消失した事と一致する。また他の皮質領域の操作では、このような行動変化は起きなかった.また運動準備中の様々な時間帯で皮質活動を抑制することで,特定の時間タイミングでの脳活動が重要であることも明らかになってきた.上記の結果から,おおむね順調に進展していると判断した.
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今後の研究の推進方策 |
光遺伝学実験の実験を完了させ,論文投稿に向けて準備を行う.
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