本研究では、独自に開発したウイルスベクターを用いた逆行性越シナプス的多重トレーシング法と、同法に順行性トレーシングを併用する入出力解析法などの先端的回路解析法により、前頭前野が皮質下領域や小脳と形成するネットワークの構築様式を明らかにするための研究を行なった。今年度は、これまで開発してきた、複数の異なる蛍光タンパク質をそれぞれ発現する高発現型狂犬病ウイルス(RV)ベクターを、前頭極および前部帯状皮質へ注入し、昨年度注入を行ったサンプルと共に、二次・三次ニューロンとしてラベルされる大脳基底核や小脳のニューロンの分布を解析した。その結果、線条体、淡蒼球外節、視床下核で多重ラベルされるニューロンの分布パターンが異なることが明らかとなり、ハイパー直接路、直接路、間接路の情報処理様式の違いを反映していると考えられた(原著論文投稿準備中)。また、2種類の異なる蛍光タンパク質をそれぞれ発現する感染伝播速度低下型・高発現型狂犬病ウイルス(RV)ベクターと、超高発現型アデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターの同時2領域注入による、皮質―基底核ループにおける線条体と入出力解析法の開発では、同時注入により超高発現型AAVベクターの発現が減弱することが確認されたため、これを克服するための開発を行い、より感染伝播速度が遅い感染伝播速度低下型RVベクターの開発と、超高発現型AAVベクターの発現速度を向上する注入法の確立に成功した。本研究ではさらに、機械学習を利用して切片画像から自動でラベルデータを生成する手法の開発に取り込み、高い精度のラベルデータを生成するアルゴリズムを開発することに成功した。現在原著論文として投稿するための解析を進めている。また、これと並行して薄切前脳のex vivo MRI構造画像や薄切中の断面画像を利用して、3次元多重ラベルデータを作製する解析パイプラインの構築を行っている。
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