社会性は相互作用のなかで他者の意図や意思を汲み取り、また適切に伝達する機能である。この社会的相互作用において言語に依らない情報伝達プロセスについて神経機能ー行動を結びつけた包括的な理解は進んでいない。 そこで本研究では、ヒトに類似した脳構造と豊かな社会性行動で知られる小型霊長類コモン・マーモセットを用い、神経科学・人工知能双方の研究分野から社会脳と社会性行動のリンクを探索することを目的とした。 神経科学研究として、脳局所の神経活動を一過的に制御する手法をマーモセットに実装した。これは化学遺伝学と呼ばれる技術であり、ウィルスベクタを用いて人工受容体を神経細胞上に発現させたうえで、そのアゴニストを全身投与することにより当該細胞の活動性を一定期間制御することができる。ドーパミン神経系における実証実験を完了し、現在主著論文を投稿中である。 人工知能研究として、行動のシークエンスをモーション・トラッキングしたうえで、時系列構造に内在する動作単位や構文構造の解析アルゴリズムの開発を行った。ガウス過程を組み込んだ状態空間モデルの有用性を実証実験を通じて検証し、その成果を国内外の学会にて発表した。現在、論文執筆を進めている。 これらの研究成果を踏まえ、社会脳ネットワークの主要な構成要素として知られる扁桃体の一過的な機能抑制モデル動物の作出を完了し、社会的場面における行動変容のデータ駆動抽出および定量評価を進めている。
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