研究領域 | 人工知能と脳科学の対照と融合 |
研究課題/領域番号 |
19H05000
|
研究機関 | 国立研究開発法人理化学研究所 |
研究代表者 |
森岡 博史 国立研究開発法人理化学研究所, 革新知能統合研究センター, 特別研究員 (20739552)
|
研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2021-03-31
|
キーワード | 機械学習 / 人工知能 / 脳科学 / 非線形解析 / ソフトコンピューティング |
研究実績の概要 |
本研究は,複雑・非線形な脳のダイナミクスと,その背後にある潜在因子の理解を目的とする.そのために本研究では特に,代表者らが近年開発した非線形独立成分分析(ICA)手法を理論的にさらに発展させることで,新たな深層学習に基づく教師なし非線形ダイナミカル表現学習法を開発し,脳の非線形ダイナミクスとその背後にある潜在因子の推定を目指す. 本年度は主に,脳ダイナミクスの背後にあり,それをコントロールしている潜在因子の抽出と理解に向けた,教師なし非線形ダイナミカル表現学習法の研究を行った.提案法は,近年代表者らが提案した深層学習に基づく非線形ICAを,内部に再帰的な結合と外部入力を持つダイナミカルモデルへと理論的に拡張したものであり,潜在成分にある種の仮定(ここでは特に,独立性と時変な確率分布)を持たせることで,理論的に潜在因子の同定が可能であることを示した.また,推定のためのアルゴリズムを提案し,深層学習の枠組みで実装可能であることを示した.提案法の優位性をシミュレーションデータで評価したほか,実データでの有効性を示すため,脳磁図(MEG)により計測された20人の被験者の脳活動データにも適用した.その結果,外部刺激(ここでは視覚,聴覚)に対応する成分が抽出されることを示し,神経科学的に妥当な結果を得ることができた.また,それらの潜在成分の被験者間での類似度を評価した結果,提案法による潜在成分が他手法よりも高い類似度を持つことが示された.これらの結果はヒトの脳ダイナミクスを理解する上で重要な知見であり,本研究を遂行する上でも重要な足がかりとなる.また,提案手法は非線形ダイナミクスを解析する上で極めて汎化性の高い手法であり,脳に限らず様々なダイナミクスに適用可能であるため,今後さらなる発展が期待できる.
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
非線形ダイナミクスに対する新しい解析法である「非線形ダイナミカル表現学習法」を開発し,脳計測データに対して良好な結果を得た.提案法により推定された潜在成分は,被験者に対する外部刺激に対応するものが抽出されていることが示唆されるなど,神経科学的な知見に合致する結果が得られた.また,生成モデルへの拡張や,さらなる大規模高次元データへの準備も整いつつある.以上を総合して,脳の非線形ダイナミクスの理解に向けた研究を順調に進められたと考える.
|
今後の研究の推進方策 |
本年度で開発したダイナミカル表現学習法をさらに発展させ,未来状態を予測するダイナミカル生成モデルの研究へと進み,脳ダイナミクスとその潜在成分に基づく脳内情報予測処理の理解を目指す.その際には,より高い空間分解能(高次元)である磁気共鳴機能画像法(fMRI)による脳計測データに適用することで,脳内で外界に対する表現や予測がどう実現されているのか,それら脳内表現のより精細なメカニズムの解明を目指す.
|