研究領域 | 「意志動力学(ウィルダイナミクス)の創成と推進」に関する総合的研究 |
研究課題/領域番号 |
19H05011
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研究機関 | 富山大学 |
研究代表者 |
笹岡 利安 富山大学, 学術研究部薬学・和漢系, 教授 (00272906)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 嗅覚 / 糖尿病 / うつ / オレキシン / ドパミン |
研究実績の概要 |
生活習慣や社会構造が急速に変化した現代社会では、うつ病と肥満・2型糖尿病患者が激増しており、これらの疾患の発症は連動する。代謝調節を適正化することで意志力を高めてこれらの疾患の悪循環に対しての介入法として嗅覚機能に着目した。嗅覚と代謝系の連携機序や意義は未知であり、本研究ではマウスを用いて、空腹時の食餌の匂い刺激が糖・脂質代謝機能に及ぼす影響を検証した。 マウスに対する食餌性嗅覚刺激法として、多数の小孔を有する遮光瓶内に餌を充填し、視覚情報を与えることなく絶食マウスに食餌の匂いを受容させた。嗅覚刺激後の糖・脂質代謝の急性的変化を解析するため、経口糖負荷試験(OGTT)、ELISAによるインスリンおよび血清遊離脂肪酸測定、および小動物用代謝測定システムによる呼吸商解析を行った。 正常C57BL/6Jマウスに対し、空腹時に食餌性嗅覚刺激を行い、糖・脂質代謝の急性的変化を解析した結果、刺激後1時間において血糖値は不変であったが、血中の遊離脂肪酸の増加を認め、エネルギー源として脂質の動員が認められた。しかも、再摂食後において呼吸商を指標に糖・脂質代謝様式を解析した結果、非刺激群が糖代謝型を呈するのに対し、嗅覚刺激群は脂質代謝型を示すことを見出した。一方で、レプチン抵抗性を示す食餌性肥満マウスおよび遺伝性肥満db/dbマウスでは嗅覚刺激後の再摂食時における呼吸商の変化は認められなかった。以上、嗅覚系はレプチン依存的に代謝適応を惹起し、再摂食後に脂質の燃焼を促進することで糖・脂質代謝の調節に重要なことから、今後、嗅覚刺激による代謝適応がうつの防御に及ぼす影響を検証予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2019年度科学研究費助成事業(科学研究費補助金)交付申請書に記載したとおり、「意志力」形成に嗅覚系とエネルギー供給系が関与することを検証した。嗅覚刺激および嗅覚消失マウスのエネルギーバランスの変化を、摂食量、運動量、エネルギー消費量を指標に、代謝測定システムで解析した結果、絶食後の再摂食に伴う炭水化物消化型から脂肪燃焼型への代謝的適応が嗅覚系に依存することを明らかにすることができた。以上の成績をもとに、2020年度に嗅覚刺激による代謝適応がうつの発症防止に寄与する可能性とその機序を解明するための研究の進展と成果が期待される。
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今後の研究の推進方策 |
2019年度科学研究費助成事業(科学研究費補助金)交付申請書に記載した研究計画に基づいて、2020年度は慢性ストレスによるうつ発症と代謝異常に対する嗅覚系の防御効果を検証する。慢性うつマウスを社会性敗北ストレス負荷法で作製し、相互作用率を基にうつを評価する。また、アデノ随伴ウイルスを用いて梨状皮質神経細胞にChR2やeArchT3.0を発現させて光遺伝学的に嗅覚記憶機能を変化させる。これらのマウスを用いて、ストレス負荷中に嗅覚系を活性化すると「意志力」が強化されてうつが防止できるか検証する。逆に、嗅覚系を抑制すると、うつが増悪するか検証する。以上の研究を推進するこで、嗅覚-情動-糖・脂質代謝を連係させる脳の機構を解明し、うつと糖尿病を未病状態で防止するための新規治療方策を提起する。
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