公募研究
生活習慣や社会構造の変化により、現代社会ではうつ病と肥満・2型糖尿病が増加しており、これらの疾患の発症と進展は互いに連関している。本研究では、マウスにおいて嗅覚系の刺激により生体の代謝調節を適正化して意志力を高めることが、これらの疾患の悪循環を改善する可能性につき検証した。空腹時の食餌性嗅覚刺激により血中遊離脂肪酸は増加し、再摂食後もブドウ糖ではなく脂質利用の亢進を認め、嗅覚刺激は脂質代謝型にエネルギー利用を転換した。嗅球破壊により嗅覚系を消失したマウスでは次第に耐糖能異常を呈した。そこで、嗅覚刺激による炭水化物消化型から脂肪燃焼型への代謝適応が、意志力を高めて抗うつ効果に及ぼす影響を調べた。従来の受動回避試験によりマウスの記憶について解析した結果、嗅覚刺激群と非刺激群で暗室への入室時間に差異は認めなかった。また、嗅覚系に深く関与する梨状皮質の神経活性をDREADD法によりhM4Diを発現させて抑制しても、高架式十字迷路を用いた不安解析やY字迷路試験を用いた記憶解析での変化を認めなかった。次に、電気ショックが発生する暗室に食餌を設置して、絶食状態でのマウスが暗室に入室するまでの時間を測定する改良型受動回避試験により葛藤を克服する意志力を評価した。その結果、嗅覚刺激に伴いマウスの暗室への入室時間は顕著に短縮した。さらに、強制水泳試験を用いて無動時間を基に急性うつの発症に対する影響を評価した結果、嗅覚刺激により無動時間の短縮を認めたことから、意志力の増強による抗うつ効果が示唆された。以上より、食餌性嗅覚刺激による脂肪酸利用を促進する代謝適応が意志力を向上させることから、嗅覚系が代謝疾患に加えてうつ病の新たな治療標的として有用な可能性が示された。
令和2年度が最終年度であるため、記入しない。
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Diabetologia
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10.1007/s00125-021-05447-x.