公募研究
これまで、ストレス関連脳領域や末梢組織におけるCAST、ELKSの発現や役割に関する詳細な研究は行われてなかったことから、本年度はまず、プレシナプス分子CASTおよびELKSのストレス関連脳領域、末梢組織における基礎的なデータを固めるため、mRNA、タンパク質の発現の確認解析を行った。まず、全脳領域での発現パターンを調べるため、CAST, ELKSをそれぞれ特異的に検出するfluorescence in situ hybridization (FISH) や免疫組織染色 (IHC) を行った。その結果ELKSは小脳顆粒細胞においてmRNAが顕著に強く発現し、そのタンパク質は小脳分子層に分布しているのに対し、CASTはmRNAもタンパク質も脳内に幅広く発現していることが分かった。続いて、ストレスに関連する部位について詳細に調べたところ、ホルモン分泌中枢である脳下垂体では、ストレス関連ホルモンACTHを放出する前葉ではCASTではなく、ELKSタンパク質が発現しており、副腎においてもELKSのみ発現していることが明らかとなった。これに対し、ストレス応答回路である視床下部室傍核―延髄腹外側部ではELKSではなく、CASTのmRNAの発現が確認された。これらの結果はCASTとELKSはファミリー分子ではあるが、ストレス応答に関しては異なる役割を果たす可能性が示唆された。続いて、ストレスに応答した神経細胞を検出するため、最初期遺伝子c-Fosの発現をFISHで検出する系の確立を行った。マウスに対し30分の拘束ストレスを行うと、視床下部室傍核においてc-Fosの発現が顕著に増加した。また、CASTとc-Fosの二重FISH染色の結果、室傍核のCAST陽性細胞のうち約30%の細胞が拘束ストレスにおいて活性化することが明らかになった。
2: おおむね順調に進展している
ストレス関連領域を対象にCAST、ELKSの発現解析を行った結果、脳内ストレス応答領域である視床下部室傍核や延髄腹外側部ではCASTが発現し、脳下垂体前葉、副腎ではELKSが発現するという2つのファミリー分子がストレス関連領域において大きく異なる発現様式を持つことが明らかとなった。また、脳下垂体の発現解析についてはCAST KOの母マウスの養育行動異常を報告する論文として報告した (Sci. Report, 2020, Hagiwara et al.)。さらに、c-Fos mRNAをマーカーとして、拘束ストレス時に活性化した神経細胞を検出する系も確立できた。c-Fosが増加した視床下部室傍核ではCASTの発現も高いことが分かったため、室傍核からのストレス情報の伝達において、CASTが何らかの役割を持つ可能性が示唆された。以上の成果から、本研究はおおむね順調に進展していると判断した。
ストレスによる動物個体への影響を調べる実験系の確立を目指す。具体的には血糖、もしくはカテコールアミンといった生体マーカーをELISA等により測定する生理学的な実験系と、高架式十字迷路、オープンフィールド試験、ショ糖嗜好性試験等の気分・不安障害の動物行動学に基づいた実験系によりストレスの影響を評価する。実験系が確立されたのちには、CAST/ELKS floxマウスにc-FosプロモーターでCreERT2が発現するAAVを感染させることにより、ストレスに応答する神経細胞特異的にCAST/ELKSの発現を欠失させる。その後のストレスを与え、前述の生体マーカーの測定や、行動実験により評価していくことにより、ストレス制御におけるCAST/ELKSの機能を検討する。副腎髄質へDREADD発現AAVを感染させ、薬剤投与によるカテコールアミン分泌制御によるストレス応答脳領域でのシナプス可塑性への影響を検討する。同様の実験系をCAST/ELKS cKOマウスを用いてストレス刺激による、シナプス可塑性の変化、動物行動の変化におけるCAST/ELKSの役割を明らかにする。
すべて 2020 2019 その他
すべて 雑誌論文 (9件) (うち国際共著 1件、 査読あり 9件、 オープンアクセス 9件) 学会発表 (2件) (うち国際学会 1件、 招待講演 1件) 備考 (1件)
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