うつ病患者おいて、アストロサイトの数の減少が報告されている。また、うつ病の動物モデルを用いた解析からアストロサイトの機能低下とうつ様行動の関連性が指摘されている。特に、アストロサイトのGqタンパク質共役型受容体(GqPCR)を介したシグナル及びアストロサイト由来のグリア伝達物質であるATPの低下と動物の意欲に基づく行動の関連性が指摘されている。しかし、アストロサイト機能の増強が動物の意欲行動を増強できるか、すなわち、アストロサイトを介した意欲制御の可能性については不明なままである。アストロサイトのGqPCRシグナルをGq-DREADDを用いて操作し、その動物行動に与える影響を検討した。ストレス応答や不安との関連が指摘されている腹側海馬に着目した。AAVを用いてGFAPプロモーターもしくはGfaABC1Dプロモーター制御下に腹側海馬アストロサイトにhM3Dqを発現させた。hM3Dq受容体は、一部のニューロンにも発現したが、腹側海馬アストロサイトに高発現した。hM3Dqのリガンドの1つのDREADD agonist 21を腹腔内投与し行動学的評価を行った。腹側海馬アストロサイトにおける、急性のGq-DREADD刺激はオープンフィールド試験における移動距離および場所嗜好性に影響を与えなかった。また、尾懸垂試験における無働時間にも影響しなかった。一方、慢性的なGq-DREADD刺激によって、尾懸垂試験における最初の無動エピソードまでの潜時が延長した。急性脳スライス標本を解析により、Gq-DREADD刺激は歯状回アストロサイトにおいて大きなCa2+シグナルを誘発し、また、細胞外ATPレベルを上昇させることが示された。以上の結果から、腹側海馬アストロサイトにおけるGq-DREADD刺激は、アストロサイトのグリア伝達物質放出を介して抗うつ様の作用を惹起することが示唆された。
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