本研究では、社会忌避行動や不安様行動の亢進を引き起こす過度のストレス反応と、情動行動にほとんど影響しない程度のストレス反応の差別化に関わる神経活動変化や脳領域、細胞集団を特定するため、急性ストレス暴露の時間・回数に基いて、ストレスの強度に応じた行動変化と神経活動変化を脳全体で網羅的に解析した。ストレス強度の増大に伴って、315領域に分類した脳領域の中でも、青斑核において顕著なc-Fos発現細胞数の増加が認められたため、本年度は当該脳領域の化学遺伝学的な活動操作や薬理学的な阻害が、行動に及ぼす影響を解析し、ストレス暴露時のノルアドレナリン神経系の機能操作が、翌日以降の社会性忌避行動を抑制することを見出した。また、ストレス暴露時に活動する青斑核のノルアドレナリン神経の神経投射などを全脳イメージングにより解析するため、独自に発現調節配列などを変更したアデノ随伴ウイルスベクターAAV-mDBH-tTAを作製した。本AAVとTREプロモーター制御下に蛍光タンパク質を発現するAAVを用いた条件では、青斑核における蛍光タンパク質発現細胞の92.8%がTH陽性であり、全脳イメージング技術FASTと組み合わせることで、全脳領域における青斑核ノルアドレナリン神経の神経投射を軸索レベルの分解能で捉えることが可能になった。これらの研究を通して、青斑核の活動がストレスの抵抗性・脆弱性を双方向性に制御する可能性を見出し、また当該脳領域を標的とした新たな細胞標識・遺伝子導入用のAAVを構築することに成功した。
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