適度なストレスは生存に有利な生体反応を誘導するが、過度なストレスやストレスの遷延化(慢性ストレス)は抑うつ、興味や喜びなどの快感覚の消失、思考力の減退など様々な行動変化を誘導する。同時に、ストレスは交感神経系や内分泌系の活性化を介し、末梢臓器にも影響を及ぼす。古くから、ストレスは血液中のリンパ球に対する好中球の比(Neutrophil-Lymphocyte ratio)を増加することが知られているが、脳機能変化との関連については不明である。 そこで、慢性ストレスによる血球の動態変化を精査した結果、慢性ストレスは血中の好中球や血小板を増加し、赤血球を減少した。赤血球の減少の原因を探ったところ、骨髄での成熟赤芽球数が減少していた。赤血球減少により脾臓での異所性の赤芽球産生が誘導され、鉄を細胞内に取り込む前の赤芽球数は増加したものの、成熟赤芽球数は増加しなかった。この結果に合致して、ストレスは血清鉄を減少した。ストレスが血清鉄減少を誘導するメカニズムは解析中である。 ストレス休止から一週間後には赤血球や血小板は正常に戻るが、好中球の増加は維持していた。ストレスに対する感受性がマウスの系統間で異なることに着目し、C57BL/6マウスとBalb/cマウスを比較した。C57BL/6マウスと比較し、慢性ストレスはBalb/cマウスで有意に抑うつ行動を誘導し、同時に末梢血中の好中球数をさらに増加した。この結果はストレス感受性が末梢血中の好中球と相関することを示しており、ストレスのバイオマーカーの開発に繋がる可能性がある。
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