これまでの解析から、高n-6/低n-3飼料を摂取したマウスにおいて、中脳腹側被蓋野におけるドパミン作動性ニューロン数が増加し、さらにスクロース水の摂取が増加することを見出した。しかし飼料による介入では全身に影響が及ぶため、中脳腹側被蓋野におけるドパミン作動性ニューロン数の増加とスクロース水の摂取量の増加における因果関係は不明瞭である。本年度は、昨年度に続き、ウイルスベクターを用いた神経回路選択的除去技術により、高n-6/低n-3飼料投与群において中脳腹側被蓋野から側坐核に投射する過剰なドパミン作動性ニューロンを選択的に除去し、スクロース水の摂取量の増加を抑制できるかの検証にあたった。昨年度の解析により、レンチウイルスベクターFuG-Eではドパミン作動性ニューロンへの感染が見られなかったため、EGFP発現アデノ随伴ウイルスベクターAAV2およびAAV2Rを中脳腹側被蓋野または側坐核に注入し、側坐核または中脳腹側被蓋野におけるEGFPの発現をそれぞれ解析したところ、いずれのウイルスベクターでも高いEGFPの発現が認められた。これにより、アデノ随伴ウイルスベクターを用いることで、マウスにおけるドパミン作動性ニューロンに外来遺伝子を発現させることができると分かった。 スクロース水の摂取などの快楽的摂食は、ドパミンだけでなく内因性カンナビノイドによっても制御されている。そこで、コントロール飼料または高n-6/低n-3飼料を摂取したマウスの腹側中脳における内因性カンナビノイドを質量分析計を用いて網羅的に定量した。しかし、いずれの内因性カンナビノイド分子種の量にも群間差は認められず、高n-6/低n-3飼料の摂取によって亢進される快楽的摂食に内因性カンナビノイド系は関与していないことが示唆された。
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