近年、社会における競争的傾向が高まっている。その際、競争に敗北した人達が意志力をいかに保つかということは、個人の健康にとっても社会の活力維持にとっても重要である。マウスにおいても、社会的敗北は社会的忌避行動や報酬への嗜好性減弱、不安様行動の亢進といった、うつ病に類似した意志力低下現象をもたらす。しかし、その神経機構は良く分かっていない。申請者は、意志力の中でも、他個体との社会的接触を求める神経機構について研究を進めた。 2020年度の研究実績としては、前頭前皮質のオキシトシン受容体発現ニューロンの薬理遺伝学的な活動操作が挙げられる。具体的には、Oxtr-Creノックインマウスの前頭前皮質にCre依存的にhM3Dqを発現させるAAVベクターを局所投与することで、前頭前皮質のオキシトシン受容体発現細胞特異的な活動操作を達成した。社会的敗北ストレスを与える際にhM3DqのリガンドであるCNOを腹腔内投与することで薬理遺伝学的な活性化を行い、社会的敗北ストレスの後に誘導される各種行動変化にどのような影響を及ぼすか検討した結果、tail-suspension testにおいて不動時間が有意に減少することを見出した。また、これまでの研究において社会的敗北ストレスによってオキシトシン産生ニューロンが強く活性化すること、前頭前皮質のオキシトシン受容体発現細胞はオキシトシン投与によって活性化することを確認しているが、ストレス応答時に前頭前皮質においてどの程度のオキシトシンが分泌されているのかは不明である。この問題を解決するため、共同研究を立ち上げ、オキシトシンを直接検出可能な蛍光センサーの導入を進めた。これに関連して、神経ペプチドを脳内で直接検出する手法の現状と今後の展望に関してレビュー論文を発表した。
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