研究領域 | 都市文明の本質:古代西アジアにおける都市の発生と変容の学際研究 |
研究課題/領域番号 |
19H05031
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研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
板橋 悠 筑波大学, 人文社会系, 助教 (80782672)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 社会の複雑化 / ヒトの移動と物流 / 同位体比分析 / 西アジア / 人骨 / 新石器時代 / 青銅器時代 / 銅石器時代 |
研究実績の概要 |
食料の獲得方法やその消費、文化や経済、社会構造のあり方や変化と密接に関係している。したがって、過去の人々がどのような物をどのような人々と分け合って食べていたのかが分かれば、当時の経済活動や共同体内の集団構造に関する多くの情報が得られると期待できる。 授乳中の女性は排卵が抑制され次子を妊娠することができない。したがって、授乳期間が短縮されると出産間隔も短縮され、結果として女性の生涯出生数が上昇し、人口増加に繋がるとする仮説が提示されている。新石器時代の集落の大型化や青銅器時代に起こった都市の誕生などが、授乳習慣の変化に伴う人口増加の結果として起こった可能性を検証するため、トルコ共和国の新石器時代から青銅器時代人骨で窒素同位体比分析を行い、乳幼児の同位体比の年齢変化から、授乳期間の復元を行った。その結果、生業が狩猟採集から穀物栽培、家畜飼養へと変化した新石器時代では、授乳期間に変化は見られず約3歳まで母乳を与えられていた。一方で、銅石器時代から青銅器時代の遺跡では、約2歳で授乳が終わっていることが示され、新石器時代に比べて授乳習慣の短縮が見られた。西アジア新石器時代に指摘されている人口増加や集落の大型化に授乳習慣の変化は関係していない一方で、都市集落の誕生と授乳習慣の変化は同時期に起こっていたことが明らかとなった。この結果は、国際誌 Journal of Archaeological Science: Reportsで報告した。 平成31年度にはトルコ共和国のアシュックル・ホユック遺跡およびコブクルカヤ遺跡でアミノ酸の窒素同位体比分析、イラン・イスラム共和国のタペ・サンギ・チャハマック遺跡、イラク共和国のヤシン・テペ遺跡から出土した人骨においてコラーゲンの炭素・窒素同位体比分析を行ない、個人の食性復元とそれに基づく集落内での食物の共有・分配を検討した。次年度は、引き続き分析結果の解析を行う。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
当該年度の5月に研究代表者が東京大学総合研究博物館から筑波大学へ所属が変更になったことに伴い、5、6月は研究計画を変更して実験設備の構築に務めた。当該年度の前半では既にサンプリングを行っていたトルコ共和国の先土器新石器時代遺跡のアシュックル・ホユック遺跡、青銅器時代のコブクルカヤ遺跡の人骨、動物骨を中心にアミノ酸窒素同位体比分析をおこなった。年度前半の作業は概ね予定通りに進行したと判断できる。 しかし、昨年末のイランとアメリカの関係悪化によりイラク調査が延期になり、その後の新型コロナ流行により予定の調査とサンプリングが行えていない。また、トルコ資料はすでにヨーロッパに持ち出された資料の分析を予定していたが、新型コロナウィルスの感染拡大により資料の移送や共同研究者の来日が延期となるなど、昨年度後半に予定されていた海外との共同研究が停滞している。本研究では、対象遺跡のあるトルコ、イラク、イランへ調査にいき、対象資料をサンプリングして日本に持ち帰る必要があるが、そのため予定されていた分析資料を得られていない状況にある。そのため当該年度後半は、日本国内の大学や博物館に所蔵されている資料に対象を変更し、イラン共和国やバーレーン王国の出土資料でサンプリングを行った。 ただ次年度は日本国内で管理されている資料に対象を変更することで研究が遂行される見通しであったが、その後の日本国内の感染拡大による在宅勤務の徹底により実験が行えない状況になっており、今後の研究遂行に不安が出ている。
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今後の研究の推進方策 |
次年度は、当初の計画であったトルコ、イラク資料を中心としたものから地域を変更し、イラン、バーレーン、カザフスタンの新石器時代~青銅器時代資料を中心に行う。本研究の目的である「西アジア先史時代の移動と社会構造の復元」は、新たな対象地域でも同様に議論されるべき題材であり、イラン、バーレーン、カザフスタンの遺跡も西アジア地域全体のおける都市社会誕生の過程を明らかにする上で埋めなければならないピースの一つである。 次年度では、イラン・イスラム共和国のタペ・サンギ・チャハマック遺跡、イラク共和国のヤシン・テペ遺跡、バーレーン王国のマカバ遺跡の出土人骨で歯エナメル質の酸素・ストロンチウム分析を行い、遺跡内埋葬人骨の出身地推定を計画している。またカザイフスタン青銅器時代遺跡出土人骨で骨コラーゲンの炭素・窒素同位体比分析、アミノ酸窒素同位体比分析を行い、共同体内の食性の個人差から社会構造の復元を試みる。これらの資料はすでにサンプリング済み、もしくは研究代表者が所属する筑波大学に所蔵されている。 次年度の後半は、2019年度と2020年度前半で測定した分析結果を解析し、論文執筆と学会発表により成果を公表する。論文は国際誌 Journal of Archaeological Scienceへの投稿を計画している。 しかし、新型コロナウィルスの感染拡大により2020年度4月から5月は原則在宅勤務となり、実験室での前処理作業が行えていない。今後の社会状況によって次年度前半はこれまでに分析した試料の解析と論文執筆作業を優先して進める予定である。またWorld Archaeological Congressと日本西アジア考古学会での口頭発表を予定していたが延期の予定となっている。異なる機会での成果の公表を模索している。
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