研究領域 | 都市文明の本質:古代西アジアにおける都市の発生と変容の学際研究 |
研究課題/領域番号 |
19H05034
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研究機関 | 信州大学 |
研究代表者 |
佐倉 弘祐 信州大学, 学術研究院工学系, 助教 (90757220)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | イスラム文化 / モロッコ / マラケシュ / フェズ / メクネス / ケタラ / 灌漑水路 |
研究実績の概要 |
今年度は、イスラム文化が色濃く残るモロッコを調査した。中規模で水資源に乏しいマラケシュ、同じく中規模だが比較的水資源が豊かなフェズ、水資源が豊富な小規模の都市メクネスの3都市を対象とした。 マラケシュは、ケタラと呼ばれる地下水路と灌漑水路によって都市がゾーニングされている。最も水資源が豊富なエリアに王朝が管理する農園(アグダル)が構えられている都市内におけるヒエラルキーの実態を把握した。都市部には1箇所のみケタラの遺構が現存しており、その広大な地下空間を利用したワインセラーやカフェとしての利用など、地元大学が転用の可能性を探っている。今後の展開に注視したい。 フェズは、年々水量は減っているものの、水資源を活かした都市組織が建設から800年近く経った現在においても継承されている。一見するとカオスにみえる旧市街地だが、複数の地区に峻別されており、各々の地区に共同のトイレ、手洗い場、浴場等が設置されている。皮なめし工房は水資源を利用した重要な生業であり、灌漑水路から水を引き込んで利用している。カオスに内在する秩序の一端を水資源を介して把握することができた。 メクネスは、町中を水量豊富な河川が貫く、モロッコでは数少ない水資源の豊かな都市である。河川の右岸、左岸で明快なヒエラルキーが存在している。左岸に多く住む貧困層は河川敷を畑として農産物を旧市街地内で売ることで生計を立てている。人口が少ないため、水資源を奪い合うことなく、枯渇せずに済んでいる。 しかしながら、3都市とも気候変動により、この20年間で水資源が著しく減少していることを危惧していた。貴重な水資源を有効活用するモロッコの先人の知恵から学ぶことは多い。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
2019年度は当初、2月26日から3月14日までの約3週間かけて、モロッコ とトルコを調査する予定であった。しかしながら、新型コロナウイルス感染拡大により、トルコへの入国が禁止されモロッコのみの調査となってしまった。
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今後の研究の推進方策 |
2020年度は、まず2019年度の現地調査の調査結果、収集した資料をもとに、マラケシュ、フェズ、メクネスの「水路・都市変遷図」を作成し比較分析したものを論文としてまとめる。 新型コロナウイルス感染拡大が落ち着いた場合、2月に前年度に調査に行けなかったトルコと当初から2020年度に訪問を予定していたエジプトの現地調査を実施する。感染拡大が収束しなかった場合には、現地調査など研究の一部を来年度に繰り越すことも検討している。 収束した場合、モロッコ 、トルコ、エジプトの調査結果、収集した資料を整理した上で、3月末に研究協力者の松原康介氏、海外研究協力者アドリアン・トーレス、アダナ、ザガジグでヒアリング調査を実施した専門家を日本へ招待して、公開シンポジウム「地中海沿岸都市の都市構造と灌漑水路網(仮)」を申請者の勤務先である信州大学工学部キャンパスにて実施する。
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