今年度は、夏期にアダナ(トルコ)、ザガジグ(エジプト)に調査に行き、3月中に公開シンポジウムを開催する計画であったが、新型コロナウイルス感染拡大の影響により、どちらも実現できなかった。 現在所有する資料・データでの研究に切り替え、バレンシア(スペイン)の灌漑水路と都市形成の関係性について、マクロな地図を用いた分析とミクロなフィールドサーヴェイによる分析を行なった。マクロでは時代ごとの都市と農地の境界として、ミクロでは敷地同士の境界として灌漑水路が都市形成に影響を及ぼしていることを丁寧に導き出した。本研究成果は、都市計画系国際ジャーナルLAND(査読付)で再査読まで進んだが内容ではなく英文に問題があるとされ、再提出となった。次年度の6月採用を目指して修正を進めている。 昨年度に現地調査を実施したモロッコ研究に関しては、特にマラケシュの調査結果を整理して、新学術領域研究「西アジア都市」2020年度第1回全体研究会にて発表した。マラケシュには地上を流れる灌漑水路(セキア)と地下を流れる灌漑水路(ケタラ)が共存しており、時期・時代に応じた両者の関係が都市形成に強い景況を及ぼしていることを明らかにした。とりわけ王朝権力により、王の庭園(Agdal)や都市全域に散在するゴルフ場に優先的に灌漑水路を流すヒエラルキーが顕在化しており、都市構造に強く影響を及ぼしている。結果的に市民は水不足に苦しんでいる現状であるものの、利用されなくなったセキアの地区内での小規模な再生など市民が主体となった活動が芽生えつつある。 またバレンシア、マラケシュにおける研究成果をまとめ、Valley-city research on Islamic Culture CitiesというテーマでVIII AACCP symposiumに投稿した。
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