公募研究
近年、鍾乳石の化学分析から過去の降雨量の変化が復元され、気候変動に伴い降雨特性が大きく変化していたことが明らかになってきた。しかし、西アジア(特にイラン・イラク)を対象とした研究はほとんどなく、過去の気候変動において西アジア周辺の降雨特性がどのように変化してきたかについては十分に理解されていない。そこで、本研究においては、イランの石筍・トラバーチンの炭素14年代測定・同位体分析から西アジア地域の過去数千年~数万年間の長期的な古気候復元を目指している。2019年度は、イラン北西部・西アゼルバイジャン州タフテ・ソレイマンの円錐状のトラバーチンの山から層序を確認しながら連続的にトラバーチン試料と、山麓から湧水を採取し、炭素14年代、安定炭素同位体比(δ13C)測定を行った。その結果、湧水の炭素14年代は3.1 kBP、δ13C値は+7から12‰であり、このトラバーチンが熱水由来の古い年代を持つ湧水から沈殿して生成したことが示唆された。トラバーチンは4.2 kBPから3.0 kBPの炭素14年代を示し、湧水が示す年代を考慮して、このトラバーチンの実際の形成年代、形成速度を求めた。他方、2019年10月7-16日に、イラン・クルジスタン大学に出向き、ハイボリュームエアサンプラーをセットアップし、大気エアロゾルPM10の採取を開始した。試料の炭素14濃度は約50 pMC (percent Modern Carbon)の値であり、化石燃料炭素と生物起源炭素の寄与が半々であることがわかった。現在、クルディスタン大学の連携研究者の協力のもと、継続的に大気エアロゾル採集を実施中である。その他、水試料から溶存炭素を効率的に抽出する手法を開発した。この手法は、マグネシウムや硫黄成分の濃度が高く、従来の手法だと炭素抽出の難しかった本研究のような水試料に対しても有効であることが明らかになった。
2: おおむね順調に進展している
2019年の10月7-16日にイランに調査に行き、トラバーチン、湧水試料を予定通り採取することができた。また、イランへの持ち込みが可能か危惧していたハイボリュームエアサンプラーも、クルディスタン大学に無事設置することができ、エアロゾルの採取を開始することができた。日本に持ち帰った試料の分析も順調に終えることができ、これまでのところ、研究課題はおおむね順調に進展していると言える。
2020年度は、タフテ・ソレイマンのトラバーチンの下層から上層までの詳細な時系列に基づき、カルシウム、マグネシウム、ストロンチウム、希土類元素などの元素変動、炭素・酸素同位体比変動から、古環境復元を行う。またストロンチウム・ネオジム同位体変動に影響を与えるダスト成分を明らかにし、タフテ・ソレイマンのトラバーチンの起源・成因を探る。同様の手法をクリ・カレ洞窟から採取した石筍にも適用する。一方、イラン・クルジスタン大学に設置したハイボリュームエアサンプラーにより、引き続き大気エアロゾルの採集を行ってもらい、その試料の分析を行うことにより、季節によるイランへのダストの飛来状況の違いを明らかにする。当初は、2020年度内にイランに出向き、自分でエアロゾル試料を持ち帰る計画にしていたが、新型コロナウィルス感染拡大により、イランに渡航できるかどうかわからないため、イランからエアロゾル試料を空輸で送ってもらうことを計画する予定である。以上の結果を総括し、イランのトラバーチン・石筍を用い、ダストの影響を加味したマルチプロキシ地球化学分析によって西アジア地域の古気候復元を行う手法を確立し、論文にまとめる。
すべて 2020 2019 その他
すべて 国際共同研究 (1件) 雑誌論文 (5件) (うち国際共著 3件、 査読あり 2件、 オープンアクセス 2件) 学会発表 (3件) (うち国際学会 1件)
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新学術領域研究(研究領域提案型)「都市文明の本質: 古代西アジアにおける都市の発生と変容の学際研究」研究成果報告2018年度
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