自然と文化の両面において価値が高い世界遺産であるカッパドキアでは、地域の文化や歴史を伝える遺構や壁画の支持体としての凝灰岩の風化対策、また独特の景観の保全が喫緊の課題となっている。本研究は、2か所の岩窟教会を対象に、教会外壁を構成する脆弱な凝灰岩の表面風化メカニズムを明らかにすることと、主に表面の撥水処理による保存対策手法の検討を行うことを目的とした。 数年前から調査を行っているレッドバレー地区に加え、2019年の調査の際にパシャバー地区にも環境計測の機器を設置し、現地協力者へ定期的なデータ収集を依頼した。また、両地区において、対象とする岩窟教会と同じ岩質と見られる小岩体に撥水剤を試験施工し、経過観察を行うこととした。翌年はCOVID-19の影響により渡航することができず、研究期間を延長し、2022年に再渡航して設置した機器類のメンテナンスと小岩体の確認を行った。 パシャバー地区では1年間の気象データと約3年間の地盤の温度・水分データが得られた。レッドバレー地区と同様、冬季には氷点下となる日数も多く、最寒期には外気温が-10℃を下回ることもあるが、地表面から50mm程度入ると0℃を下回らないこと、降雨の少ない7~9月以外は地表面で乾湿繰返しが生じることを確認した。地表面付近のみ凍結融解や乾湿繰返しにより脆弱化する可能性があり、そこに年に数回降る強い雨が浸食を引き起こす可能性があることが示唆された。小岩体の試験では、撥水剤を塗布した岩体に比べ、塗布していない岩体の表面の風化が大きく進行したことを確認した。 また、効果的な撥水処理を行うための基礎情報を得ることを目的に、教会外壁のCFD解析モデルを作成し、現地で観測された風向・風速・降水量のデータから解析条件を定め、雨の当たり方を検討した。解析精度向上のため、現地で撮影した写真を用いて3D形状を生成し、教会の複雑な形状をモデル化した。
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