当初、2020年度に予定していた研究活動は、新型コロナウィルス蔓延による全般的な制限を受けたため、2022年度まで繰り越されることとなった。しかし2022年度、コロナ禍は落ち着きの傾向を見せていたものの、ウクライナの情勢悪化、および日本の円安の影響が加わり、本科研費の主要な用途として予定していた海外招聘・出張の航空料金は、急激に高騰した。そのため、今年度は予定通り2組の海外招聘を優先的に実現させたものの、本科研費による筆者自身の海外現地調査は断念せざるを得なかった。 そのような中で、2022年12月にノートルダム大学のLi Guo教授を招聘して、西アジアの都市における民衆文化や港湾都市クセイルについての講演会を2回実施し、また、2023年2月にはカリフォルニア大学サンタ・バーバラ校のAdam Sabra教授を招聘し、西アジア都市の形成と宗教との関連や、西アジアの都市と農村の関係についての講演会2回を開催した。同時に、彼らとの研究交流を通じて、西アジアの都市における墓地の構造と機能について見識を深めるべく努めた。 筆者自身は、現地文書館には通えなかったものの、手許にある史料の再検討を通じて、『al-Durr al-Munazzam fi Ziyara al-Jabal al-Muqattam』の校訂本に序文を発表した。本書は、エジプトの墓地に関する最も重要な中世史料の校訂である。そこにおいて筆者は、エジプトの墓地参詣手引書の作成過程を具体的に論じた。また、岩波講座世界歴史においては、これまでほとんど顧みられることのなかった、中世ムスリム社会の子供の死に関する書物ジャンルを紹介した。さらに、本科研の研究テーマに関連して、口頭研究報告も行った。そこでは、西アジアの都市カイロにおける墓地研究の諸問題について論じ、文書分析を通じてその運営財源としてのワクフ(寄進)制度に焦点を当てた。
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