研究領域 | 都市文明の本質:古代西アジアにおける都市の発生と変容の学際研究 |
研究課題/領域番号 |
19H05042
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研究機関 | 京都外国語大学 |
研究代表者 |
杉山 雅樹 京都外国語大学, 外国語学部, 非常勤講師 (30773824)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | ヘラート / ティムール朝 / スーフィズム / 西アジア都市 / タリーカ / 聖者崇拝 / イラン / 写本研究 |
研究実績の概要 |
当初2020年の年明け以降に海外の数か国で調査を行う予定であったが、対象国の政情不安や新型コロナウイルス感染症の感染拡大により、いずれも現在に至るまで実施不可能となった。そのため、ティムール朝期のタリーカ(スーフィー教団)に関する作品の写本調査については、全く成果を挙げることはできなかった。しかし、その一方で、元々の予定では海外調査に充てていた期間を、これまでに収集した写本や刊本の分析に費やすことができた。さらに、ティムール朝末期のタリーカの導師の中でも、特に「聖者」とみなされたような人々がヘラートの都市社会においてどのような役割を果たしたのか、また彼らに対する王族や有力者、一般民衆の崇敬の念が都市開発にどのような影響を与えたのか、といった新たな視点から検証を進め、その研究成果を公表することができた。 主な研究成果は以下の通り。まず、『都市文明の本質:古代西アジアにおける都市の発生と変容の学際研究3』(科研費研究成果報告書2020年度)にて、ティムール朝末期のヘラート郊外においてタリーカの導師たちの聖墓集積地が形成された過程を検証する報告を発表した。また、『都市からひもとく西アジア―歴史・社会・文化―』(勉誠出版)では一章を担当し、タリーカの導師を含む「聖者」の墓がティムール朝末期のヘラートの都市開発の拠点となっていたことを明らかにすると共に、当時の代表的な導師が政権と都市社会とをつなぐ接点として機能していたことを具体的な事例を挙げて指摘した。その他、本研究課題に関連するものとして、ティムール朝末期に編纂されたヘラートを対象とした歴史地理書の写本研究の論考と、ティムールとタリーカの導師との関係を再検証する論考をそれぞれ発表した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
当初実施予定していた海外調査は、いずれも政情不安や新型コロナウイルス感染症の感染拡大により、今日に至るまで中止せざるをえなくなった。そのため、図書館での写本調査や現地での書籍購入を行うことができず、史資料の収集という点では大きく予定を変更しなければならない事態となった。しかし、その間にこれまでに収集していた写本や史料の分析を行い、新たな視点から研究を進めることによって、いくつかの成果を公表することができた。また、欧文で書かれたものを中心に先行研究の収集と内容の確認を進め、新たな写本情報を得ることにも成功した。今後、感染が落ち着いた後で海外での写本調査を実施する予定であるが、その際には上述した理由によって当初の予定よりもさらに徹底した調査が期待できる。以上のことから、研究全体としてはそこまで大きな遅れとはならないと考える。
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今後の研究の推進方策 |
今後、制限のない海外渡航が可能になれば、写本調査を実施する予定である。調査対象となる写本やそれを所蔵する図書館に関する情報は既に得ているが、さらに徹底した調査を行えるように詳細な情報の入手と事前準備を怠らないようする。また、ティムール朝期の様々なタリーカ(スーフィー教団)の内部で作成された史料の分析については、これまで写本調査が実施できなかったこともあり、一部遅れが生じている。今後既に入手できている写本や刊本を基に内容の分析を進めつつ、海外での写本調査が実施可能になれば、そこで得たデータを基に写本間の照合を行い、改めて内容の検討を行う。さらに、ティムール朝期に活発な活動を展開した様々なタリーカ間の教義面での比較を通じて、それぞれのタリーカが持つ特徴やティムール朝末期のヘラートの都市社会に与えた影響を検証し、研究成果として公表する予定である。なお、既に一般向けの書籍である『都市からひもとく西アジア』に寄稿することによって、本研究課題の成果の一部を社会に還元するという目標を果たしているが、今後も講演などを通じてその取り組みを継続したいと考えている。
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