2020年度の当初の研究計画としては、主に海外での写本調査と収集した写本の読解を進め、その内容分析を行うことを予定していた。しかし、新型コロナウイルス感染症の拡大の影響により、2020年春以降長らく海外調査を実施することができなかったため、手元にあった一次史料の校訂本に基づいて内容の分析を重点的に進めてきた。やがて2022年夏頃からようやく自由な海外渡航が可能になり、2023年2月と3月にそれぞれトルコとパキスタンで写本調査を実施することができた。 トルコではスレイマニエ図書館において、本研究の分析対象であるスーフィー教団ヌールバフシーヤの名祖ムハンマド・ヌールバフシュが遺したスーフィズムの教義に関わる作品群を収録した写本と、彼が影響を受けたとされるクブラウィーヤの導師アリー・ハマダーニーの作品群を収録した写本を調査した。また、ティムール朝後期のヘラートにおける宗教関係者や文人・学識者・知識人たちの交流を検証する上で必要となる、当時人気を博した文学ジャンルの写本群についても調査を行った。一方、パキスタンではパンジャーブ大学図書館において、ティムール朝後期の宗教関係者やイラン系官僚、学識者たちの動向に関する記述を数多く含む年代記と、同朝末期の君主とヌールバフシーヤの導師との交流を示す書簡・勅令の写しを収録した作品の写本をそれぞれ調査した。いずれの写本についても、該当箇所の複写データを入手し、その内容分析を進めた。以上のような調査と分析によって、ムハンマド・ヌールバフシュが唱えたスーフィズムの教義・思想面の特徴、およびティムール朝末期のヘラートにおけるスーフィー教団の活動について、多角的に検証することが可能になった。
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