公募研究
本公募研究では、「ハイドロジェノミクス」が求める新たな水素の可視化技術であり、かつ金属中の孤立水素を観測できる数少ない方法である「粉末白色中性子ホログラフィー」を実現し、水素吸蔵物質での水素位置決定、あるいは水素周囲の原子構造観測を目指す。水素が格子を組まず孤立して合金中にある場合、通常の散乱実験では観測が困難である。代表者らは、世界で初めて白色中性子をホログラフィーに用いることで、並進対称性を持たない微少量ドーパントまわりの原子構造を世界最高精度で観測することに成功したその後の1年で様々な物質での原子構造観測に成功しており、その過程で水素もドーパントとして観測できる可能性を見いだしたため、本計画を着想した。すなわち、水素周囲の原子構造を観測することで孤立水素位置を決定できるはずである。ホログラフィーは本来単結晶試料を用いるが、粉末試料での中性子ホログラフィー実験も試験的には有望な結果が得られている。本公募研究で粉末中性子ホログラフィーに成功すれば、水素吸蔵物質での孤立水素の構造研究が可能になる上、X 線吸収微細構造法と同様の応用研究に欠かせない測定手法となる。令和元年度では高分解能高感度の検出器の整備と、BドープSiに水素を吸わせた試料での水素位置決定の試みを行った。ビーム実験により、導入した高分解能検出器は、従来の検出器よりも検出効率で5倍程度、かつ分解能も2倍程度向上していることが確認できた。これにより令和2年度の実験での高精度化が期待できる。また、BドープSiに水素を吸わせた単結晶試料での中性子ホログラフィー実験において、B周りの水素を観測できた可能性が高い。令和2年度には、その検証実験を行う。
2: おおむね順調に進展している
予算の大部分を投入して、高分解能高強度の CeBr3型検出器を新たに導入した。ビームを使った性能テストにより、従来の検出器の検出効率の5倍となっていること、また分解能も2倍程度向上していることが確認できた。これは純粋な水素の信号を観測するのための大きな進展である。この検出器を複数装備すれば、令和2年度には高精度の実験が可能になり、水素からの信号の観測が期待でき、本研究計画も大きく進展する。少なくとも合計4本を装備する予定である。また、東北大金研折茂グループとの共同研究で、BドープSiに水素を吸わせた単結晶試料を用いて中性子ホログラフィー実験を行った。慎重な解析の結果、B周りの水素像を観測できている可能性が高いことがわかった。まだ検証実験が必要であるが、それが確認されれば、これは世界最初の例となる。そのため、令和元年度2月に軽水素と重水素の実験を行っている。重水素と軽水素は散乱長の符号が反転するため、得られた原子像の符号に注意すればB周りに観測された原子像が水素であることを確認できる。現在、解析中である。
新規導入のCeBr3型検出器が予想以上の性能を持っていることが確認できたので、令和2年度にはさらに複数本導入し、すくなくとも4本のCeBr3検出器で測定ができるよう実験装置を整備する。これが実現できれば、水素からの信号を直接観測することも可能となり、より信頼性の高い研究が実現する。令和元年度に単結晶試料での水素観測に成功していることから、令和2年度には。YH2など典型的粉末の水素化物での測定に挑戦する。その測定にも新規CeBr3検出器が活躍するはずである。
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すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件) 学会発表 (8件) (うち国際学会 8件、 招待講演 3件) 備考 (1件)
AIP Advances
巻: 10 ページ: 035115(1)-(7).
10.1063/1.5143839
http://neutron.appl-beam.ibaraki.ac.jp/