公募研究
銅酸化物高温超伝導体においてはモット絶縁体にキャリアドープすることにより高い転移温度の超伝導が現れる。同様に、新しいスピン軌道モット絶縁体Sr2IrO4にキャリアをドープすれば、高い転移温度を持つエキゾチックな超伝導の発現が期待される。初年度はSr2IrO4薄膜作製などを中心に下記の研究を行った。1)スピン軌道モット絶縁体の薄膜作成:まず固相反応によりバルクのSr2IrO4を合成した。その後、試料をペレット状に成型後、高温電気炉を用いて酸素雰囲気下で焼成した。粉末X線回折(PXRD)により、目的の物質が得られたことを確認した。また、磁化率や電気伝導度測定を行い、文献同様な物性を示すことを確認した。次に、パルスレーザー堆積法(PLD)により、基板上にSr2IrO4の薄膜作製を行った。基板は、格子定数が近い(LaAlO3)0.3(SrAl0.5Ta0.5O3)0.7 (LSAT)を用いて、基板温度や酸素分圧などの条件を変えて作製を行った。薄膜X線回折装置により、Sr2IrO4の成膜を確認した。2)水素イオンビーム照射とin situ伝導度測定:本年度は良質な薄膜作製に成功したルチルTiO2を用いて、水素イオンビーム照射とin situ伝導度測定を行った。室温での水素ドープによる顕著な抵抗減少を確認した。その後、低温でさらに水素イオンビーム照射を行うことにより、抵抗が増加することや、温度履歴と低温水素ドープにより抵抗のスイッチングが出来ることを見出した(論文投稿中)。3)水素イオン照射前後での構造・物性評価:水素イオン照射後にホール効果測定を行うことにより、ルチルTiO2に電子ドープされていることが分かった。また、核反応分析(NRA)を試みた結果、低温で水素ドープした際の薄膜内部での水素濃度分布を可視化できることが分かった。
3: やや遅れている
使用していたパルスレーザー堆積法(PLD)が度々故障し、使用できる期間が短かったため、薄膜の成膜条件を十分に検討出来なかった。そのため、Sr2IrO4の良質な薄膜作製にやや遅れが生じている。
電子相関とスピン軌道相互作用が共存することによる新奇なスピン軌道モット絶縁体Sr2IrO4の良質な薄膜作成と水素イオンビーム照射によるキャリアドーピングを行い、エキゾチックな水素誘起超伝導の開発を目指す。パルスレーザー堆積法(PLD)によって薄膜が作成できることが分かってきたため、その作成条件を詳細に検討して、良質な薄膜を作成する。室温や低温での水素イオンビーム照射とin situ伝導度測定を行い、超伝導探索を行う。さらに、Sr2IrO4に対し酸素欠陥や化学置換を行ってキャリアを導入した試料にたいして水素イオンビーム照射を行うことも検討し、超伝導の安定化を目指す。水素イオンビーム照射実験前後でHall効果の測定を行い、キャリア濃度や易動度の変化を調べる。また、UV-Vis-NIRスペクトル測定などによりバンドギャップや電子状態の変化を調べる。それにより、水素ドープされた試料の電子状態を解明する。超伝導が観測された場合、低温における超伝導のゼロ抵抗検出や、超伝導転移温度の水素濃度依存性を調べる。外部磁場下での磁気抵抗測定を行い、上部臨界磁場の異方性などを調べる。さらに、重水素を用いて重水素イオンビーム照射実験を行い、超伝導の同位体効果を調べ、超伝導の機構解明を行う。
すべて 2020 2019
すべて 雑誌論文 (7件) (うち査読あり 5件) 学会発表 (5件) (うち国際学会 4件、 招待講演 2件)
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