研究領域 | ハイドロジェノミクス:高次水素機能による革新的材料・デバイス・反応プロセスの創成 |
研究課題/領域番号 |
19H05059
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研究機関 | 広島大学 |
研究代表者 |
宮岡 裕樹 広島大学, 自然科学研究支援開発センター, 准教授 (80544882)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | アンモニア / アンミン錯体 / ボロハイドライド / 化学状態分析 / 核磁気共鳴 / ラマン分光 |
研究実績の概要 |
錯体水素化物やハロゲン化物は,分子状のアンモニア(NH3)を吸蔵し「アンミン錯体」と呼ばれる安定相を形成する。これらアンミン錯体は,吸蔵体の種類やNH3との組成により,物性を制御することが可能であることから,エネルギー貯蔵物質やイオン伝導体等として注目されている。これらアンミン錯体の機能性には,水素が深くかかわっていると予想され,特に,ボロハイドライドのアンミン錯体においては,(BH4)-錯イオン中の水素(Hδ-)とNH3中の水素(Hδ+)という異なる水素が共存するため,水素が物性や機能性に及ぼす影響は大きいと推測される。本研究の目的は,NH3吸蔵特性の詳細及びアンミン錯体中の水素の化学状態を実験的に分析し,水素の相互作用と機能性発現メカニズムに関する知見を得ることである。 アルカリ金属或いはアルカリ金属ボロハイドライドについて,圧力-組成-等温線(PCI)測定を用いたアンミン錯体形成特性の調査を行った。その結果,いずれのボロハイドライドも多段階の反応で配位数の異なるアンミン錯体を形成することが分かった。特に,LiBH4は液化を含む複雑な反応過程を示した。 NH3雰囲気で測定可能な環境セルを作成し,LiBH4のその場ラマン分光測定を実施した。その結果,(BH4)-中のHδ-とNH3中のHδ+の化学状態が連動して変化することが明らかとなった。これは,NH3吸蔵状態と水素の相互作用に強い相関があることを意味している。 東北大学との共同研究として,Mg(BH4)2等のアンミン錯体数種について,Liイオン伝導特性評価を実施した。結果として,本年度に調査した試料では,アンミン錯体形成に伴う伝導性の向上は見られなかった。 上記研究の他に,共同研究として,NH3雰囲気下におけるその場核磁気共鳴(NMR)分光測定,及び新規アンミン錯体のNH3雰囲気高圧合成についての準備を進めた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究計画の通り,Li,Na,Mg,Caのボロハイドライドについて,圧力-組成-等温線(PCI)測定を用いたアンモニア吸蔵(アンミン錯体形成)特性の調査を行った。加えて,LiBH4については,アンミン錯体形成における熱力学安定性の評価,重水素化試料LiBD4を用いた同位体効果の調査を実施した。 NH3雰囲気下でのその場ラマン分光測定について,計画通りNH3を利用可能な環境セルを作製し実験を行った。その結果,(BH4)-中のHδ-とNH3中のHδ+の化学状態がアンモニアの組成変化に伴って変化することが見出された。これは,NH3吸蔵状態と水素の相互作用に強い相関があることを意味しており,期待した成果が得られたといえる。 アンミン錯体の機能性開拓を目的として,東北大学との共同研究でMg(BH4)2等のアンミン錯体数種のLiイオン伝導特性評価を実施した。結果として,アンミン錯体形成に伴う伝導性の向上は見られなかったが,具体的な機能性開拓の共同研究に着手できた点は,当初の計画以上の進捗である。 徳島大学と京都大学の共同研究者と連携して,NH3雰囲気化におけるその場核磁気共鳴(NMR)分光測定の準備を進めた。当初は,NMRチューブにアンモニアガスを徐々に導入する方式で検討を行っていたが,細長い容器に測定に必要な量の試料を導入すると,NH3吸蔵に伴う試料体積の増加により反応速度が極端に低下し,アンミン錯体形成が進行しないことが明らかとなった。そのため,別の試料容器を考案中であり,当初の予定より研究が遅れている状況にある。また,東京工業大学との共同研究として,新規アンミン錯体のNH3雰囲気高圧合成についての準備を進め,これまでアンミン錯体形成の報告がないアミド化物(MNH2)を研究対象とすることを決定し,高圧容器内でNH3を発生させる機構の検討等を行った。 以上のことから,概ね予定通りの研究進捗状況であると判断される。
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今後の研究の推進方策 |
【試料合成及びアンモニア吸蔵特性評価】PCI測定については,初年度に引き続き種々の物質についての調査を進める。熱力学特性評価については,現状測定誤差が大きいため,測定点を増やしてより正確な値を見積もる予定である。また,同位体効果の調査について,市販のLiBD4試料はLiBH4との混相であるため,高純度化を検討する。また,同位体効果を明確にするため,LiBH4とBD3の組み合わせでの実験も進める。これら重水素を用いた試料については,NMR分析にも用いる予定である。 【構造評価及び水素の化学状態分析】アンミン錯体の構造評価については,これまでと同様にXRD測定を用いる。ラマン分光測定は,初年度に作製した環境セルを用いて,その他のボロハイドライド等についても測定を行い,アンミン錯体形成における水素の役割に関する知見を深めたい。NMR分光測定については,試料容器の作製を進め,NH3雰囲気下でのその場分析に着手する予定である。加えて,ラマン分光と相補的な赤外吸収分光測定についても実施を検討する。 【機能性開拓】東北大学との共同研究で実施しているアンミン錯体のLiイオン伝導度評価については,結晶構造学的な視点での考察を踏まえつつ,評価を続けたいと考えている。また,東京工業大学との共同研究として準備を進めてきた,新規アンミン錯体のNH3雰囲気高圧合成については,具体的に実験を実施する予定である。 【動力学特性評価】初年度の全体会議において指摘されたアンモニアの吸蔵反応における動力学特性に関する評価を行う。 【成果公表】国内外の学会等に参加し研究成果発表を積極的に行う。研究成果をまとめた論文の執筆を進め,科学系学術雑誌へ投稿する。また,知的財産としての価値が認められると判断される成果については特許出願を行う。
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